決死不殺の心

 ホラインはぬかるむ土を避けて進み、カトブレパスの側に立つ。

 カトブレパスは人の気配を感じ取り、動きを止めた。


 緊迫の時。カトブレパスが振り向く瞬間、ホラインは剣を振り抜き、カトブレパスのまなこを斬る。

 横一文字いちもんじ剣閃けんせん走り、カトブレパスが見るより先に、片目を潰す。

 残る片目で敵を殺さんと、カトブレパスは蛇がとぐろを巻くように首をねじる。

 いやしかし、返す剣がわずかに早い。あざやかなり、剣技・水平二段斬り。


 ホラインは剣を納めて距離を取る。

 死の魔眼を失ったカトブレパスは、もはや無力。苦しげにうめいて倒れ、うずくまる。

 とどめを刺すか刺すまいか、ホラインがしばらく様子を見ていたところ……まか不思議、カトブレパスは彼の前で見る見る縮む。


(これは何だ?)


 身構えるホラインだが、カトブレパスはモグラネズミに姿を変えて、泥にもぐり消え去った。

 予想だにせぬ事に、ホラインは立ちぼうけ。


(魔性を失い、無力なものになったのか? わからぬ、わからぬ……)


 理解不能なできごとに、ホラインは難しい顔でうなり、ビリーの元に帰る。



 ビリーは両目を押さえつけ、カトブレパスを絶対に見ないように伏せていた。

 怖がりすぎとホラインは思うものの、死の危険がある所では臆病になるのは決して悪くない。


「これビリー、怪物は片づけたぞ」

「ホラインさん、終わりましたか?」

「そうだ。もう危険はない」


 起きたビリーは茂みから顔だけ出して、おっかなびっくり辺りを見回す。


「ええと、それで……怪物はどこに?」

「分からない。両目を潰すと、もぐらに変じて地中に消えた」

「えっ、そんな事が?」

「事実そうなったのだ。しかたあるまい」

「でも……そんな話をしても、誰も信じちゃくれませんよ……」


 彼は怪物の存在を証明しにここまで来た。それなのに、わけのわからぬ話をしては、今度は正気を疑われる。

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