勇気の証明

 肩を落とすビリーに対し、ホラインは静かに告げた。


「怪物は確かにいたぞ。もしも誰も信じずとも、私だけは知っている」

「でも、ぼくがうそつきじゃない証拠には……」


 彼は仲間を見返したかった。勇気を認めてもらいたかった。願い叶わず、彼は落ち込む。

 ホラインは眉間みけんにしわ寄せ、ビリーに問う。


「不満かな?」

「いえ、それは……」


 事実ビリーは不満だった。よそ者の旅人に認められて、だから何だという話だ。彼が求めていたものは、ではない。

 ホラインは忠告した。


「そなたは功をあせっておる。一度にみなを見返して、あっと言わせてやりたいと。だが、それはならぬこと。信用は一度に勝ち取るものではない。不断の行いあってのもの」

「わかっています」

「いや、それがわかっておらぬ証拠だよ。善人であらんとするなら、善行を積まねばならぬ。勇気を認めてほしければ、その勇を示さねばならぬ。心の内で一人だけ良いつもりでおってはいかぬ」

「だから、ぼくは怪物を!」

「なあビリーよ、うそつきと呼ばれる者は常日頃つねひごろウソをついておる者か、大きなウソをついた者。正直に生きてきた人間をうそつきとののしる者はそうおらぬ」


 ホラインの言葉にビリーは黙り込む。

 なおも彼は続けて語る。


「おそらくは、あの怪物の存在がウソかまことかは重要ではない。村の者らが笑っておるのは、そなたの弱さ、そのものだろう。怪物がおったところで、それは変わらぬ」

「だったら、ぼくはどうすれば……」

「どうにもならぬ。ただ強くなる他にない」

「でも、あなたのお話では、強さは勇気ではないと……」

「だが、強くなるには勇気が必要だ。強さを得ては勇気を忘れ、また強くなるために勇気を出す。勇気といっても、大そうなものではない。小さなことの積み重ね」


 とうとうビリーは何も言わなくなってしまった。

 言いすぎたかとホラインは両目を閉じる。


「悪かった。知った風なことを言った」

「いえ、そんな……」


 そのまま二人はジンカの村に引き返す。

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