騎士失格

 これは勝てぬとホラインが困り果ててしまった時、死神騎士は剣を納めた。

 ホラインが何事かと思っていると、死神騎士は彼に告げる。


「どうやらここに本物の騎士はおらぬようだ。我が手が狩るは騎士の命。騎士にあらねば、狩る価値なし」


 ホラインは命拾いしたのだが、素直にはよろこべない。


「どういう事だ!」

「汝は騎士ではないということ。身なりしかり、ふるまいしかり、そなたは旅のならず者。ならず者にはならず者の死神がおる。汝の始末は勤めにあらず」


 命惜しさに作法を忘れ、野蛮にもゴロツキまがいのケンカどうに走った手前、ホラインは言いわけできぬ。だが、それでも何も言わねば認めてしまう。


「私は騎士だ」

「口先だけなら何とでも。汝、恐れを知る者よ。真に汝が騎士ならば、死に目にはまた会えよう。今日のところは見逃そう。死人にしては元気すぎる」


 死神は馬に乗って引き返し、闇の中に姿を消した。

 ホラインは疲れてその場に座り込む。


「はた迷惑な死神め。最初から素直に己の間違いを認めておれば良かったものを」


 息を整えホラインは、重い腰をよっと上げ、ふらつく足で空き家に帰る。そのままベッドに寝転んで、目覚めた時には明日の朝……。



 ベッドから跳ね起きたホラインは頭をかきかき、首をひねる。昨晩ゆうべの事は夢だったのか?

 死神など、よく考えればおかしな話。職業ごとに死神がいるのなら、医者や乞食の死神もいるのだろうか、赤子や家畜はどうなるのだ?

 しょうもない事を考えて、ホラインはハッと正気に返る。


「あっ、ダーバイル!」


 昨日まで危篤だったダーバイルの生死やいかに?

 ホラインは空き家を飛び出し、ダーバイルの寝かされている民家に急いだ。

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