まじないの効果

 ホラインが民家に入ると、ダーバイルが死神用のお供え物を食べていた。よほど腹が減っていたかとホラインは笑みを浮かべる。


「おお、ダバよ。元気になったか」

「ありゃりゃ、どうして騎士の旦那がここに?」

「どうもこうも……うーむ、まあ、端的に言えば偶然だが。今日までいろいろあったのだ」


 ホラインはかくかくしかじか事情を話し、ダーバイルにペンダントを返す。

 ダーバイルは青ざめて、そのペンダントを受け取った。


「あのぅ、旦那……ウチのカミさんに会ったんですか?」

「ああ、会った。一度帰って、ちゃんと無事を伝えておけよ」

「いやー、もう、旦那、何をしてくれたんですか……」

「何もかにも、そなたが頼んだ事なのだが」

「あー、もう、嫌だ。帰りたくない。絶対に怒られますよ」


 意外にもダーバイルは恐妻家。彼の妻が年中あの調子なら無理もないと、ホラインは苦笑いして彼を諭す。


「だが、ダバよ。そなたの妻の薬がなければ、そなたは今頃どうなっていた」

「わかってますよ……」

「そなたの事を心配し、わざわざ薬を作ってよこす、何とけなげな妻ではないか。ここは素直に感謝せよ」

「わかってます」

「村人にも感謝せよ。親切にも行き倒れたそなたを拾い、今日まで世話してくれたのだ」

「はい、それもわかってます。旦那にも感謝しないといけませんね」

「困った時は助け合い。私が困った時には頼む」

「ええ、そりゃあもう」


 二人は軽く拳を打つ。


 そこでホラインは、ふと死神の祭壇を見た。

 そして「おや?」と目を凝らす。食い物と同時に銀貨もなくなっている。


「時にダバよ、ここに銀貨はなかったか?」

「いえ、オレは食い物にしか手をつけてません」

「それもどうかと思うのだが……まあ良かろう。葬式パンが快気かいき祝いになっただけ。それより銀貨だ。そなたのために置いたのだが……」

「オレのため? ちくしょう、誰か盗みやがったか!」

「いや、きっとそうではない。無いなら無いで構わんさ。銀貨の数枚、小さなこと。健康に勝る宝なし」


 腑に落ちぬ顔のダーバイルと、思案顔の騎士ホライン。

 さて効いたのは、まじない師の怪しい薬か、村人の奇妙な儀式か、ホラインの置いた銀貨か、ただ単にダーバイルの生命力が勝ったのか?

 真相は神の――いや、死神の知るところ。

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