死神が来る

 どれだけ時間が過ぎただろう。草木も眠る真夜中に、ホラインは馬のひづめの音を聞く。

 うたた寝も覚め、闇の中に目を凝らせば、現れたるは青白き馬。あれこそがうわさに聞く死神の馬。ホラインは目を見開いて、馬上の者を確かめる。それは鎧を着た騎士だった。


 ホラインは飛び出して、騎士の行く手に立ちはだかる。


「あいや、待たれよ!」


 騎士はホラインに驚いて馬を止める。


「何者だ?」

「私は旅の騎士ホライン。そなたはいったい、いかなる者か」

「我が名は『死』。死者の魂を導く者」

「死神か!」

「地上ではそうと呼ばれることもある。それより何の用向きで、我が道を阻むのだ?」


 馬上で問う死神騎士に、ホラインは堂々答える。


「そなたは騎士の死神だろう。残念だが、この村に騎士の死人は出ておらぬ」


 死神騎士は否定した。


「いや、旅の騎士が瀕死と聞いている」


 おやこれはとホラインは首をひねった。もしやすると死神にも手違いなぞがあるのかと。ダーバイルもホラインも同じ旅人。この村に来た旅人が瀕死と聞いて、彼と騎士を取り違えたのか。


「そう思うなら、好きなだけ調べてみれば良いだろう。そもこの村に、騎士は私の他におらぬ。出直されい」


 高笑いするホラインに死神騎士は驚いた。


「むむ、何と! それでは面目丸つぶれ。こうなれば、なんじが命もらい受ける!」


 死神騎士は剣を抜き、青くかがやく刃を向ける。

 ホラインは目をむいて驚いた。


「なぜそうなる! あまりに道理に反しておる!」

「誰であろうと一人は一人、我が前に老若貴賤ろうにゃくきせんの区別なし。我が名は死! 我が前に現れた、己の無謀を恨むがいい!」


 開き直った死神は、青い剣を振り下ろす。

 魂を狩る一撃を、ホラインは鉄の剣ではね返す。


「おのれ化生けしょうめ、死神が何するものぞ! このホライン、騎士として道理なき無法の者に負けはせぬ!」


 草木も眠る真夜中に、冒険騎士と死神騎士、片や命、片や名誉をかけて戦う。

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