峠の夜に

 ホラインは急ぎに急いでトドーに戻る。行って帰るまで四日間、ダーバイルは果たしてまだ生きていた。しかしそれでも虫の息。


「おい、ダバよ。生きているか」


 問いかけても、うんともすんとも答えない。

 ホラインはどうにかこうにかダーバイルにまじない師の薬を飲ます。

 ……だからといって、すぐに良くなるわけもなく、ダーバイルは相も変わらず生死の境をさまよっている。

 そもそもの話、まじない師の作った薬に、効果があるかもわからない。


 親切にも今日の今日まで、ダーバイルの世話を見ていた村人が言う。


「彼は日に日に弱るばかり。おそらく今夜が山でしょう。あなたが苦労し持ってきた薬が効けば良いのですが……」


 まじない師というものを信じていないホラインは望み薄だと思ったが、まだ死ぬとは決まっていないと村人に問う。


「他に何か私にできる事はないか?」

「そうですね。死神よけのおまじないでもしましょうか」


 またまじないかとホラインは肩を落とすも、他にやれる事もなし。手を尽くさねば後悔すると、村人の言うままに死神よけのまじないをする。


 村人の語りによると、死神にも数があり、旅人には旅人の死神がつくという。

 旅人の死神だから、旅人が好む物に引き寄せられる。良い靴に、パンとチーズの旅の飯、上等なマント、足を休める座り心地の良いイスをそろえておけば、旅人の死神は仕事を忘れ、ほっと一息休むという。


 これを聞いたホラインは、そんなわけないだろう、やはりまじないとあきれるも、しょうがなく奇妙な儀式を手伝った。村人の指示のとおりに簡素なつくりの死神用の祭壇をこしらえて、その上にお供え物を並べて置く。

 ホラインはダーバイルのことだから、もしかしたら旅人の死神ではなく、盗賊の死神が来るのではと考えて、食べ物の横に銀貨をそなえておいた。



 その夜にホラインは村の空き家を間借りして、一晩だけ滞在する。

 彼は死神が本当に現れるのか、夜通し起きて待ってみた。月のない真っ暗な夜、ホラインは外に出て、ダーバイルの休んでいる民家を密かに見張る。

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