夫婦は二世の契り

 ホラインは真顔になって語りだす。


「ダーバイルという男から預かった。彼は今、遠い西の村トドーにて、病に倒れ危篤なのだ」


 女の顔に動揺が表れた。

 ホラインは彼女の顔をじっと見て、静かに言う。


「もしそなた、ダーバイルの身内だろう? 私は彼に、このペンダントを妻に渡せと頼まれた」


 しばし言葉を失って、しょげていた女だったが、気を取り直すと舌を打つ。


「チッ、容体はどうなんだ? 帰れないほど悪いのか」

「ああ、そうだ。医者もさじを投げたという」


 ホラインは包み隠さず教えたが、あまりに率直すぎたかと、少し後悔。

 女は深く息をつき、また舌を打つ。


「あのバカめ、何が宝だ! いつまでもフラフラと旅をして、あげくの果てに行き倒れか」


 彼女はナイフをスッと下ろし、いまいましげに吐き捨てた。そしてホラインに謝罪する。


「悪かったな。ちょっとそこで待っててくれ」

「いや、待たれよ。このペンダントを……」

「いらないよ。ダーバイルに返しとくれ。ひつぎの中に副葬品の一つもなけりゃ、さすがに奴も寂しかろ」


 そう言いながらダーバイルの妻はどこかへ姿を消す。

 待てと言われたホラインは素直に待つが、彼女はなかなか戻ってこない。



 待たされに待たされて、もう日も暮れるという時に、ダーバイルの妻は一つの小ビンを抱えて戻ってきた。


「もう手遅れかもしれないが、こいつを奴に飲ませてくれ」

「何の薬だ?」

「万能薬さ」

「万能とは、そなたいったい……」

「まじない師だよ。とにかく任せた。嫌だとは言わせない」


 彼女は無理やりホラインに小ビンを押しつけ、にらみつける。口では何のと言いながら、やはり夫が心配なのだ。


「ああ、わかった」


 ホラインは小ビンを持って、トドーの村にトンボ返り。

 さてダーバイルは生きているか?

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