花街の影で

 そういうわけでホラインは、ダーバイルの妻を探しに、ハバーロの花街へと足を向ける。


 ホラインは騎士だからして、花街に好んで出かけることはない。騎士の品位がどうこうと、やはり騎士は面倒だ。だが、さっぱり不案内というわけでもない。

 ハバーロの花街には何度か出かけたことがある。あれはまだホラインが騎士見習いの時のこと。正式に騎士になれば、もう気楽には遊べぬと、仲間内で花街に――と、それはまた後に語ろう。

 とにかく彼は花街に行き、ダーバイルの妻を探す。


 ……しかし、どう探したものか。花街に知り合いなんぞおりはせぬ。

 そこでホライン、閃いた。

 ダーバイルのペンダントを首に下げれば、気づく者がいるに違いない。いや、いてほしいと願望を込め、ホラインは花街を歩き回る。


 客引きを断りながら歩いていると、ホラインは一人の女に呼び止められた。


「ねえ兄さん、そのペンダント、ステキだね」


 顧みれば、思わず目を見張るような美人がいる。

 彼女はするする近づいて、ホラインの腕を強く引っ張った。


「ちょっと向こうで話しましょう」


 ホラインはのこのこ彼女について行く。


 入り組んだ裏道に入った先で、女はナイフを取り出すと、ホラインの首に押し当てた。


「おい、あんた。そのペンダントはどうしたもんだ?」


 人好きのする顔がにわかに険しくなり、視線も声もナイフのようにとがり出す。


「ああ、これは――」


 きっと彼女がダーバイルの妻だろうとホラインは、説明をはじめようとしたのだが、女はナイフを押し込んで強く迫った。


「うそはつくなよ。コトと次第じゃ、あんたのノドをカッ切るぞ」


 これは確かに気が強いと、ホラインは困り顔。

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