身寄りを探して

 かくして騎士ホラインはイテヨの南東、ハバーロへと折り返す。

 されど彼はダーバイルの身内を知らぬ。カミさんと言われても、妻がいるのも知らなかった。……かと言って、まごまごばかりはしておれぬ。

 しょうがないから酒場で聞き込み。まずホラインは酒場の主人に声をかける。


「もし主人、ダーバイルの身内を知らぬか?」

「ダーバイル? 奴めが何か問題を?」

「ここより東、ボルノーとの境にあるトドーにて病に倒れ、危篤なのだ」

「おや、それは……何とも無常なことですな」


 酒場の主人は悲しみもせず、ほうとため息。

 ダーバイルがあまり好かれていないことは分かっていたが、それにしてもとホラインは眉をひそめる。


「それで身内を知らないか?」

「さて、どうでしょう? 昔から問題ばかり起こしていた困り者で、もしも身内がいるのなら文句の一つは言いに行きたいところです。酒飲み仲間の者ならば、知っているかもしれません」

「飲み仲間はどこにいる?」

「ほら、そこに」


 酒場の主人が指した先には、ガラの悪そうな男たちがたむろしていた。

 普段なら関わり合いにはならないが、今は一刻の猶予もない。ホラインはためらわずに話しかける。


「もし、そなたら。ダーバイルを知っているか?」


 輪の外から声をかけてきたホラインに、男たちはガンを飛ばす。


「何だい、あんた」

「ダーバイルの知り合いだ。彼の身内を探している」

「身内だと? いったい何の用がある?」


 ホラインはかくかくしかじか事情を話す。

 それを聞いた男たちは大声で笑いはじめた。


「わっはっは! あいつもとうとう臨終か」

「悪運の強い奴だと思っていたが、その運もついに尽きたな」

「雑草ほどよく伸びるとは、しょせんことわざ。実のところはこんなもの」


 男らに心配する様子はない。

 眉をひそめるホラインに、男たちはこう告げる。


「おい、あんた。どこのボンだか知らないが、やくざ者の人生は、こんなもんだと覚えとけ」

「ちょいと寂しくなるだけさ。流す涙がもったいねえ。どうだい、あんた? とむらい酒に一杯でも」


 ホラインは眉間のしわを深くして、今一度たずねたる。


「とにかく奴の身内を知らぬか」


 男たちはへらへら答えた。


「あいつにはヨメが一人いたはずだ」

「へっへっへ、二人もいちゃあたまらねえ」

「べっぴんだが、気が強い。強すぎて、さしもの奴も尻の下」


 それが知りたいとホラインは男たちに問いかける。


「どこに行けば会えるのだ?」

「さて、知らねえ。この辺のどこかだとしか」

「心当たりのある場所だけでも」

「カタギの女じゃねえからなぁ。どっかに隠れているんだろ。花街の裏にでも入ってみれば?」


 男たちはギャハギャハと下品な笑いを上げている。

 これ以上は話を聞いてもしかたないと、ホラインは酒場から出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る