剣には心が表れる

 エストックを構えたネーマは、ホラインを攻め立てる。攻撃は苛烈で一切の容赦がない。目を狙い、首を狙って、殺さんばかりの勢いだ。

 ホラインは受けるのにも限度があり、不本意ながらネーマの胴を狙って叩く。避けられるのは分かっているが、攻めの手を緩ませるには守らせるより他にない。

 しかし、ネーマは避けなかった。ホラインは慌てて剣を止めるも、もう遅い。

 彼女の腹を剣が裂く。臓器までは届いていないが、傷は深い。


 苦痛に顔をゆがめつつも、ネーマは笑って立っていた。


「女を斬った気分はどうだ、騎士様よ」

「なぜ避けぬ!」

「騎士のあんたが紳士ぶって、女だの弱者だのと言うからさ」


 ネーマの剣は鈍るものの、その殺意は変わらない。油断すれば首が飛ぶ。


「もうやめよ。こんな勝負に意味は無い」

「あんたに無くても、あたしにはある」

「なぜ私を憎むのだ」


 ホラインの問いかけを、剣士ネーマはあざ笑う。


「憎むとは?」

「剣を見れば心が見える。そなたの剣には怒りがある」

「ふふ、憎しみか。あたしにもあんたの心がよく見える。あんたの剣は騎士の剣。いかにも立派な騎士様だ。見てくれがなまくらだろうと関係ない」

「冒険騎士と名乗っただろう」

「へへへ、そうだな」


 体力がなくなりネーマは手を止める。ホラインも攻撃せずに手を止めた。

 しかし、ネーマの瞳からまだ敵意は消えていない。彼女は問う。


「もしあたしが男なら、あんたはあたしを助けたか?」


 ホラインは少し考えた。街道で出会った、剣士と三人の男。もしあの剣士が女ではなく、男だったら……。

 きっと何も変わらぬだろうと、きよい瞳で答えたる。


「当然だ。おせっかいと言われても、騎士は公正を愛すもの。老若男女、誰であれ義を重んじ、弱きをたすくに迷いはない」

「あたしは弱者か」


 剣士ネーマが求めるものは真実だ。もうホラインはごまかさない。


「ああ、そうだ。武勇なきは言うにおよばず、貧しき者、病める者、権威なき者、みな弱者。騎士ならば、公正なるを旨として、道義にのっとり、力なき者の盾となる」


 話の間に剣士ネーマは体力を取り戻し、再びホラインに突きかかる。やはり殺意は変わらない。

 ネーマは突きを連続で放ち言う。


「あんたがあたしの剣に見る、その正体は憎しみじゃない」

「では、何だ?」

だよ!」


 ネーマの剣がホラインの顔をかすめて、目の下に浅い傷つけ血を垂らす。それと同時にホラインはネーマの剣を弾き飛ばした。

 勝負あり。

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