博くを愛し寛大たれ

 剣を失いネーマはがっくりひざをつく。

 ホラインは彼女に手を差しのべたが、ぱっと払い拒否された。


「自分で立てる」


 ネーマは落とした剣を拾うと、さやに納める。そしてホラインに向けて語った。


「あたしはあんたがうらやましい。汚れなき少年のように、信じた道を迷わず行ける、その強さが」

「そうでもない。見えを張っているだけだ。実際は迷いもするし、負けもする」


 ホラインはネーマに背を向け歩きだす。

 ネーマは彼の後を歩き、うんざりした口調で言った。


「そういうところだ。後ろから刺されるとは思わぬか?」

「分からない。本当は少し怖い。だが、刺される覚悟があれば、気は楽だ」


 ネーマは声を抑えて笑う。


「怖いなら、どうして背中を見せるのだ。女など恐れてなるかと?」

「そうではない。背を見せるは信ずるがゆえ。世にいわく、人の信を得たければ、己が信を示すべし。人の名を問う前に、自ら名乗ると同じこと。人を信じ、また人に信じられる。それが理想の騎士なのだ」

「つまりは格好つけだろう? ははっ、何とも酔狂すいきょうな」

「笑わば笑え。これが私の騎士道だ」


 開き直るホラインの背をネーマはダガーでツンと突く。


「ぬわっ!! 貴様っ!」


 驚いて大声を上げ、振り返りギロリとにらむ騎士ホライン。

 悪ふざけが成功したネーマは無上の笑顔を見せて、弾けるように明るく笑った。


「あはははは! 背を向ける相手は選べ、騎士様よ」


 どこか影があり、すれていた彼女が初めてホラインに見せるあどけない顔。つき物の落ちたような変わりように、ホラインも釣られて笑う。

 信仰にいわく、許しこそが人を救う。寛大さとは、慈悲の心のあらわれなり。

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