鼻持ちならない男
騎士ホラインは剣士ネーマに向き直り問いかける。
「大事ないか」
「……助かったよ」
照れくさそうに小声で礼を言うネーマに、ホラインは得意になって胸を張る。
「騎士として当然の義務を果たしたまで。騎士は弱者の守護者たれ。か弱き子女を守らずして――」
その瞬間、ネーマの拳がホラインの顔面をとらえる。
グーで
「二度とあたしに関わるな!」
ネーマの目には涙が浮かぶ。
騎士ホラインは傲慢を打ち砕かれて、わかりやすく動揺した。
「待ってくれ、今のは違う……」
弁解しようとホラインは声をかけたが、ネーマは走り去っていく。
まさに口は災いの元。ホラインは肩を落として、とぼとぼと宿に向かった。
◇
偶然とは分からぬもので、ホラインは宿にてネーマと再会する。図らずも同じ宿を取っていたのだ。
ネーマは彼をにらみつけ、ただ無言ですれ違う。
殺意すら感じるほどの眼光に、ホラインは何も言えない。罪悪感にさいなまれ、暗い気持ちでホラインは、部屋に入って横になった。
しかし、なかなか眠れない。
弱き者を守りたい、己の心にうそはない。彼にとってはネーマもまた弱き者。だが、それを言えば傷つける。
ホラインは悩みに悩む。己の信じる騎士道が誤りだとは思わぬが、子女を泣かすは本意に非ず。では、どうすれば良かったのか?
ああナメクジなら悩むまい。
ホラインが眠れずにいると、ギイと部屋のドアが開いた。
目を向ければネーマが剣を持っている。
「ネーマ殿?」
何事かとホラインが起き上がると、ネーマは告げた。
「騎士ホライン、剣の稽古をつけてやろう」
「こんな夜中に……」
「いつでも良いと言ったのは、あんたの方だ。表に出ろ」
彼女の真意は分からぬが、このままでも眠れぬのだから、ちょうど良いとホラインは剣を持って外に出る。
そして二人は街外れの林の中へ。
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