旅を語る男

 女剣士は健脚で、ホラインの先をスタスタ歩いて行く。

 ただ後をついて歩くばかりではおもしろくないと、ホラインは女剣士に話しかける。


「もし、そなた。いつもそんなに早足なのか」


 ホラインは堅物ながら調子者。黙っていては間が持たない。

 女剣士は気だるげな声で答える。


「そなたそなたと言ってくれるな。あたしにはネーマという名前がある」

「これは失礼。ネーマ殿、私は冒険騎士ホライン」

「そいつは聞いた、騎士様よ」

「どうしてそうツンケンなのか。せっかくの道づれなのだ。もっとお互い話をしよう」

「何だ騎士様? 井戸ばたのご婦人がたじゃあるまいし。あれこれと女のことをかぎ回るな」

「いや違う。旅の話がしたいのだ。これまでに、どこを旅して何を見た?」


 剣士ネーマはホラインを顧みて、つまらなそうに息を吐く。


「ロクなもんじゃなかったよ。そういうあんたは何を見た?」

「まだ駆け出しの身ながらも、多くのものを見て来たぞ。その中でも一番は、青きニールの大滝だろう。広大な大河の水が、断崖から降り注ぐのだ。日射しを受け、ほとばしる水しぶきに虹が架かる。その美しさは、えも言われぬ」

「お気楽だな」

「旅ならば、名所を見ずして何とする」


 同じ旅の身ながら二人の価値観はすれ違う。女の身でさぞ苦労したのだろうとホラインは哀れんだ。

 しかし、それを口にすれば、また機嫌を損ねるだろうと沈黙する。


 しばらくネーマは何も言わず、ホラインは沈黙に堪えかねて自ら問う。


「なぜ旅をしているのだ?」

「悪いのか?」

「いや、旅は良いものさ。だが楽しみがなくては、ただつらいだけ」

「楽しみか。そうだなあ、男どもと剣を交わすのが楽しいよ」

「剣技が好きか!」

「そういうことではないのだが……」

「技を磨き、競い合うは確かに良い! 強き者、巧みな者、一口に剣士と言ってもいろいろだ。私も旅で多くの剣を見てみたい」

「やっぱりあんたはお気楽だ」


 あきれてこぼす剣士ネーマに、ホラインは提案する。


「ネーマ殿、良ければ稽古につき合ってくれないか。私の剣は力技。そなたのような繊細さが足りぬのだ」

「剣術バカめ。ここでやるのか?」

「いつでも良い。そなたの都合のつく時で」


 剣士ネーマは鼻で笑って聞き流す。

 この時これが失言だとホラインは気づかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る