後日談

 その翌日、騎士ホラインは騎士団に呼び出される。

 何用かとベレトの城に出かけてみれば、ひげ面の騎士団長がお出迎え。


「騎士ホライン、城下での私闘は固く禁じられている。騎士の剣は見せ物にあらず」


 騎士団長の説教に、ホラインは返す言葉もなく沈黙。

 酔っ払いや荒くれにからまれるのは騎士の常。無視して相手にせぬものと、騎士の間で決められている。

 だがホラインは騎士の法に反するとわかっていながら、あえて乗った。


「申し開きがあれば聞く」


 騎士団長はホラインに情けをかける。

 しかし、彼はわけを語らず。


「いえ、浅はかでありました。調子づく若者に痛い目を見せようと、心がくもっていたのです」


 やれやれと騎士団長はため息をつく。


「あの若者、相手がキミで良かったな。負けを知らずに増長を続けていれば、どこぞの野辺のべに散っていたやも……。それを心配したのだろう?」

「いえ、それは買いかぶりにございます」


 否定するホラインを見て、騎士団長は苦笑い。


「ああ、そうだな。いかなる大義名分あれど、無法は無法。まねをする者が現れては困る」

「はい」

「騎士ホラインに厳罰を命ず。一つ、今より二十日はつか間、ベレトの都に立ち入るべからず。一つ、今より十日とおか間、騎士の名を語るべからず。一つ、広場の騎士像の修繕費、金貨三十七枚を七日以内に支払うべし。以上三点、しかとここに申しつけおく」

「……騎士像の修繕費、もういくらか負かりませぬか」

「いや、ならぬ。本来ならば、全額百十二枚のところ。差額は騎士団の有志が負った」

「かたじけない」

「以後、気をつけよ」


 ホラインと騎士団長はともに気心きごころ知れた仲。

 金貨以外の厳罰は旅の身のホラインには軽いもの。

 これにて騒ぎは一件落着。



 また数日後、弓使いラムシハンの騒動もすっかり収まり、ホラインは再び流浪の旅に出る。今度は南、ダレスの国へ。

 彼の旅が終わる時は、その命が終わる時。

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