雨降って地固まる

 騎士ホラインの語り口にラムシハンは、はじめこそしかめっ面をしていたが、その内に彼の話に引かれていった。

 やがて彼は荷を下ろし、静かに聞き入る。

 同じ旅の身、未知の世界に心引かれぬわけがない。


 一つの話が終わる頃には、すっかり心打ち解けて、お互いに旅の話を語り合う。

 一つの話が終わる度、次は自分と語り出し、ネタが切れるまで終わらない。


「まだあるか」

「無論、あるとも」


「もう無いか」

「いやいや、あるぞ」


 そんなやり取りを繰り返す。これもまた勝負の一つ。


「もう無いぞ」

「こちらもだ」


 お互いに話が尽きたのは同時。引き分けだと、二人とも笑みを浮かべる。

 ラムシハンはため息をつき、荷を背負う。


「さて、そろそろ次の国へ旅立とう」

「また会おう、ラムシハン」

「次は負けんぞ、ベレトのホライン」

「ああ、いつでも受けて立つ」


 この世には良い負けがあると、ラムシハンは知る。

 ただ敵を打ちのめすだけが勝利ではない。やたらと相手を挑発し、勝負の場に引きずり出すのは改めようと反省する。

 これからは旅芸人の弓名人。弓の腕を試すなら、それで十分、名もいらぬ。



 弓使いラムシハンを見送って、騎士ホラインは過去を思う。

 彼もまた、かつては腕を試そうと武勇にはやり、言うも恥ずしの失敗を重ねたもの。

 名こそ惜しめというものの、騎士はかぶきや荒くれにあらず。その剣は常に世のため人のためにある。


 ゆめ忘るるな、騎士の命は名誉にあり。

 勝つ時はただ勝つでなく、良き勝ちを得ねばならぬ。それを忘れ、勝った負けたにこだわれば、まさに騎士の名が折れる。悪しき勝利に笑うべからず。

 騎士はぎょくなり。強き者、無敗の声は美しけれど、とがるばかりで自ら欠けねば石くれなり。

 騎士道はいばらの道なり。ゆえに歩む価値がある。

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