雨降って地固まる
騎士ホラインの語り口にラムシハンは、はじめこそしかめっ面をしていたが、その内に彼の話に引かれていった。
やがて彼は荷を下ろし、静かに聞き入る。
同じ旅の身、未知の世界に心引かれぬわけがない。
一つの話が終わる頃には、すっかり心打ち解けて、お互いに旅の話を語り合う。
一つの話が終わる度、次は自分と語り出し、ネタが切れるまで終わらない。
「まだあるか」
「無論、あるとも」
「もう無いか」
「いやいや、あるぞ」
そんなやり取りを繰り返す。これもまた勝負の一つ。
「もう無いぞ」
「こちらもだ」
お互いに話が尽きたのは同時。引き分けだと、二人とも笑みを浮かべる。
ラムシハンはため息をつき、荷を背負う。
「さて、そろそろ次の国へ旅立とう」
「また会おう、ラムシハン」
「次は負けんぞ、ベレトのホライン」
「ああ、いつでも受けて立つ」
この世には良い負けがあると、ラムシハンは知る。
ただ敵を打ちのめすだけが勝利ではない。やたらと相手を挑発し、勝負の場に引きずり出すのは改めようと反省する。
これからは旅芸人の弓名人。弓の腕を試すなら、それで十分、名もいらぬ。
◇
弓使いラムシハンを見送って、騎士ホラインは過去を思う。
彼もまた、かつては腕を試そうと武勇に
名こそ惜しめというものの、騎士は
勝つ時はただ勝つでなく、良き勝ちを得ねばならぬ。それを忘れ、勝った負けたにこだわれば、まさに騎士の名が折れる。悪しき勝利に笑うべからず。
騎士は
騎士道はいばらの道なり。ゆえに歩む価値がある。
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