白昼の夢魔

王の呪いのうわさ

 はるか遠い昔のこと。神々の時代が終わり、神と英雄の時代が終わり、そして私たち人間の時代が訪れた。

 悪魔も竜もまたはるか遠い昔の物語になろうとしていた頃に、一人の旅の騎士がいた。町から町へ、夢と冒険を探して歩く、流浪の騎士。その名も冒険騎士ホライン・ゲーシニ。

 大そう腕の立つ若者で、王都ベレトの騎士団では収まらないと、その身一つで冒険に明け暮れる。



 騎士ホラインはベレトより北西の国オンドルの酒場にて、トレジャーハンターのダーバイルに会う。


「おや旦那、お久しぶりです」

「おお、ダバか! かような所で会おうとは」


 ダーバイルは砂漠歩きの旅姿。

 杯を片手に持ってホラインのとなりに座り、大声で酒を頼む。


「へい主人、祝い酒だ! 上等なヤツを頼む!」


 ホラインは心配になり問いかけた。


「やけに羽振はぶりが良いじゃないか。金は足りるか?」

「ははは、天下の騎士様がケチなことを言いなさる。実は、また良い話を仕入れたんで」


 調子のいいダーバイルに、ホラインは嫌な予感。

 彼の顔色の変化を察し、ダーバイルはニヤニヤと笑いながら言う。


「ここより南にダルフという山がちな土地がありまして、そこのクトーという山に、いにしえの王墓があるという話」

「墓あばきとは感心しない」

「これはまた人聞きの悪い。お宝を土に埋めてどうなりますか。金のなる木が生えるとでも? 金は天下の回りもの。土の中で腐るより、人に使ってもらった方が、お宝もよろこぶってもんですよ」


 ダーバイルは口巧者くちごうしゃ

 ホラインはあきれて口をつぐんだが、ダーバイルはかけらも気にせず誘いかける。


「どうです、旦那。いっちょう乗ってみませんか?」

「遠慮しておく」


 にべもなくホラインは断った。

 墓荒らしの片棒を担がされるのもごめんだが、ろくな事にはなるまいという確信が彼にはあった。流されて好まざる事に手を貸せば、必ず後悔するものだ。後悔の少ない生を送りたくば、良心に逆らわぬこと。


 だが、ダーバイルは食い下がる。


「儲けは折半せっぱん

「いらんと言うに」

「……なら、こうしましょう。前金を払います。用心棒になってください」

「墓あばきに行くだけで、何がそんなに不安なのだ」


 ホラインが眉をひそめつつ問うと、ダーバイルは弱った顔でこう答える。


「いえ、それが……王の呪いがあるとかで……」

「呪いが怖いか」


 鼻で笑うホラインに、ダーバイルは反論する。


「怖いとか怖くないじゃあないんです。火の無い所に煙は立たぬと言うでしょう。うわさがあるという事は、何かあるという事です。仮に宝がなかろうとも、王の呪いの正体をあばいてやるのも、また一興」

「なるほどな」


 ダーバイルの言いわけに、ホラインは少し心を動かされる。

 悪魔や魔物がいるならば、呪いがあってもおかしくないが、うわさはうわさ、真実とは限らない。そう思うと確かめずにはいられない。

 冒険騎士の血がさわぐ。

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