矢そらしの技

 ホラインとラムシハンは三けんの距離を置き、お互いに向かい合う。

 半身になり上段に剣を構えるホラインに、ラムシハンは忠告する。


「私の放つ矢は神速。この距離で、剣ごときで防げると、思わぬ方が身のためだ。なまくらならば、折れてしまうぞ。命惜しくば引きたまえ」


 だがホラインは構わない。


「やってみろ。言葉ではなく、力で示せ」

「恨むなよ……」


 ラムシハンは弓を引く。

 その一方でホラインは一歩も動かず待っている。

 攻防を一瞬たりとも見逃すまいと、観衆たちは息をのむ。


 ラムシハンが矢から手を放すと同時に、ホラインは剣を振り抜き、矢をはじく。

 ピシュッ、パシン。遅れて音が耳に届く。二つの音はほぼ同時。

 しかる後に、しん……と無音。


 見る側はあまりに速い攻防に、なかなか理解が追いつかない。

 一拍の間を置き、どうやら剣でホラインが必殺の矢をしのぎ切ったと判断し、ワァと大きな歓声が上がる。


「やったぞ、ホライン!」

「さすがベレト一の騎士!」

「見たか、異国の弓使い!」


 しかしまだ勝負が終わったわけではない。


「まぐれだろう! 次の一矢いっしもかわせるか!」


 ラムシハンは第二矢にしを弓につがえて引きしぼる。

 ホラインはまたも動かず待っている。

 ラムシハンが矢を射つと、ホラインはまたも見事に矢をはじく。

 ピシュッ、パシンと同じ音。


「何度やっても同じ事。そなたの弓はすでに見切った」


 観衆たちは大盛り上がり。雄たけびを上げ、手を叩いてよろこび合う。中には感極かんきわまって、泣き出す者も。


「いや、まだだ! 我が秘技ひぎを見よ!」


 ラムシハンは諦め悪く、また矢を持つ。

 いさぎよく負けを認めよと、観衆たちは非難する。


姑息こそくだぞ!」

「そうだ、恥を知れ!」


 だが、ホラインは動じない。


「見せてみろ! 我が全力で跳ね返す!」

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