弓と剣

 弓使いの美男子は、ちらりと視線をホラインに向け、問いかける。


「私は全然構わないが」


 そう言われては、ホラインも引き下がれない。意趣返しに問いかける。


「こんな所でやるというのか」

「何か問題でもあるか?」

「負ける姿を見られたくはないだろう」


 美男子は大笑いして言い返す。


「それはそっちの方だろう」


 彼は広場の騎士像に向かい、弓を引きしぼる。ぱっと矢から手を放せば、たちまち矢は銅像の胴を背から貫いた。

 あたかも逃げる騎士を背から射殺すがごとし。誰が見ても、これは明らかな騎士への挑戦。


 自信を込めて美男子は告げる。


「我が弓の前には盾でも鎧でも、まさに無きがごとくなり」


 これに対してホラインは、一瞬の間に剣を振り、像の土台を真っ二つ。

 騎士像はぐらりと揺れてうつ伏せに倒れ落ちる。


「我が剣技、見せ物にはあらねども、見たくば目にもの見せてやる」


 二人の視線がぶつかって、辺りの空気が凍りつく。

 まわりの者は息をのむ。


 緊張の中、先にホラインが名乗りを上げる。


「私はホライン・ゲーシニだ。各地を旅する冒険騎士」

「冒険騎士? おかしな奴がいるものだ。私はラバタのラムシハン。天下一の弓使い」


 戦いの前に、お互いに名乗り合うのは決闘の習わしだ。

 一人の男が大声を上げる。


「決闘がはじまるぞ! 異国の弓士きゅうしとホラインの決闘だ!」



 それから人が人を呼び、ぞろぞろとやじ馬たちが集まって、広場は人で埋め尽くされる。

 天下一の弓使いと、冒険騎士の一騎打ち。二度とは無かろう対決を、見逃しては大損と、都中から人が来る。

 まるでお祭り騒ぎのよう。不謹慎にも賭け事をはじめるやからも現れた。

 こうなったら、もう退けぬ。カタをつけねば終わらない。

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