必殺の四本射ち

 ラムシハンは片手で四矢よんしを持ち構える。

 親指と人さし指とで第一矢、人さし指と中指とで第二矢を持ち、中指と薬指とで第三矢、薬指と小指の間に第四矢。


「必殺の四本射ちを受けてみよ!」


 ラムシハンは一の矢を放った後に、すかさず二の矢を弓に継ぎ、三、四の矢と、立て続けに射つ。まばたきする間の早業はやわざだ。

 四本の矢は狙いたがわずホラインに向かって飛ぶ。

 だがホラインには通じない。一の矢を叩き落として、二の矢をなぎ、三の矢を切り上げたらば、四の矢を切り伏せたる。これもまた一瞬の技。


 観衆は大歓声でホラインの剣技をたたえる。

 ラムシハンの大技をしのぎ切ったホラインは、打つ手なしかと挑発した。


「さあ、いかに!」


 ラムシハンは無言で二本の矢を構え、二本同時に発射した。

 ホラインはこれも難なく切り払い。一振りで二本の矢が落とされる。


 あらゆる手を封じられ、ラムシハンは負けを認めて、がっくりと弓を下ろす。


「もう手は無い……」


 勝負あり。観衆は一際ひときわ大きな声を上げ、ホラインの勝利をよろこぶ。


「ベレトの騎士、ホラインこそが最強だ!」

「ベレト万歳、ホライン万歳!」


 そして敗者のラムシハンに、かたきのごとく石を投げた。


「敗者は消えろ!」

「負け犬め!」

「よくもさんざん偉張えばりくさって!」


 ホラインは哀れに思い、止めさせる。


「これ、やめよ! そなたらが怒る気持ちはよくわかる。だが、この勝利は私のものだ。勝りしは私であって、みなにあらず。敗者のぐうは勝者のけん。なれば彼をたたえるべし。彼は強し、されど我はなお強し!」


 これぞ騎士道精神だ。ベレトの騎士、ホライン・ゲーシニここにあり。人々はホラインの名を繰り返し叫んでたたえる。


 その影でラムシハンは静かに去った。勇んで戦い散ったらば、敗者は黙してただ去るのみ。

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