弓使い現る

弓使いのうわさ

 はるか遠い昔のこと。神々の時代が終わり、神と英雄の時代が終わり、そして私たち人間の時代が訪れた。

 悪魔も竜もまたはるか遠い昔の物語になろうとしていた頃に、一人の旅の騎士がいた。町から町へ、夢と冒険を探して歩く、流浪の騎士。その名も冒険騎士ホライン・ゲーシニ。

 大そう腕の立つ若者で、王都ベレトの騎士団では収まらないと、その身一つで冒険に明け暮れる。



 ある日ある時、騎士ホラインは長旅を終え、ベレトのいなかに帰るところ。

 これは一時の羽休め。生まれ故郷で英気を養い、また長い修行の旅へ。


 ところが今日は様子が違う。

 酒場にてホラインは町の男らに取り囲まれた。


「ホラインさん、聞いてください」

「おう、何だ」


 そろいもそろって真剣な顔の彼らにホラインも何事だろうと息をのむ。


「三日前、旅の男がこの国にやって来ました。彼いわく、我こそは天下一の弓使い。この国で一番強い男を出せと」

「して、どうなった?」


 ホラインが眉をひそめてたずねると、男らは恥をしのんで答えたり。


「技の巧みな弓騎士が、相手になろうと出ましたが、惜しくも敗れ……。この国の程度は知れたと大口を叩かれたので、血が上り……挑みかかるも、みな敗れ……」

「ふむ、それで?」

「まだこの国には最強の騎士がいるぞと……」

「騎士団長が出てきたのか?」

「いえ、騎士どもは負けを恐れて引きこもり、勝負に出ようとしやしません。これではますます笑いもの。ホラインさん、どうにかあの生意気な弓使いを黙らせてやってください。頼みます」


 そう頼まれても、ホラインの弓の腕は十人並。

 達人を相手にしては敵うはずもなし。

 それでも故国をあなどられ、黙っていては名が泣くと、格好つけて立ち上がる。


「その男は、どこにいる?」

「今ごろは都のどこかで女たちでもはべらせて、得意になっているでしょう。何しろ顔も良いもので。ああ何とも憎い奴!」


 嫉妬の心で歯がみする男たちに背を向けて、ホラインはベレトの都に移動する。

 弓の達人、いかなる者か。

 国の名誉も大事だが、好奇の心がやや勝る。

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