後日談

 かくして騎士ホラインは、カラの国からオビアの港に帰り着く。


 そのころには夜も更けており、ホラインは港の酒場でまず一杯。


「やはり酒は地元が良いな。よその酒は口に合わぬよ」

「それは結構。ありがたいお言葉です。船旅はいかがでしたか?」


 酒場の主人の問いかけに、ホラインは杯を手に思案して、ぽつぽつ答える。


「うーむ、そうだな……まず船酔いがひどかった」

「おや、それは。ご忠告申し上げたとおりでしょう」

「それについては反省している。それとセイレーンにも会った」

「セイレーン?」

「つばさ持つ乙女の姿の魔物だよ。海にて人をさらうという」

「ははぁ、なるほど。うわさは聞いた事があります」


 そこで一旦話が途切れ、奇妙な沈黙。

 ところでと酒場の主人が自ら切り出す。


「あの怪物の件は、どうなりましたか?」

「ああ、それか……」


 どう答えたら良いものかと、ホラインは少し考えた。

 その時、頭の片すみに船乗りの言葉が浮かぶ。話しのタネはふくらませ、咲かせてナンボのものとは言うが……。

 ホラインは小さく唸った。


「いるにはいたが……」

「へえ! いたんですか! それでどうでした?」

「まあ……見事なものだったよ」


 やはりウソは言えないと、彼は困った顔になる。

 酒場の主人は怪しんだ。


「何だか妙な言い方ですね」

「いや、何とも言いがたい。あれは実際見なくては」


 その後で船乗りたちが、どやどやと酒場に入る。

 そこでまたあの船乗りが、酒飲みたちに話をはじめた。


「みなの衆、みなの衆、聞いて驚け! 今度の話は一味違う。あの海の魔物、セイレーンを退治した! 主役はそこの、騎士ホライン。そのすべてをここに語ろう!」


 酒飲みたちも酒場の娘も、みな船乗りに注目し、言葉を待つ。


「もやのただよう朝の事、船のへさきに現れたるはセイーレン。つばさ持つ、見目うるわしき乙女ながら、やはり魔物、油断めさるな。人をさそい、海に沈める恐怖の女。色香につられた愚かな男に命はないぞ。だが、そこは騎士ホライン。並のヤツとはモノが違う。恐れ知らずにも剣を持って、セイレーンに挑みかかる! そこでセイレーン、これは勝てぬと悟ったか、なぞ解き勝負を持ちかけた。我らが英雄、騎士ホラインは、どこまでも勇敢だ。知恵比べにも負けはしないと、正々堂々勝負に乗った!」


 酒場にいる全員が、船乗りの巧みな語りに聞き入る中で、ホラインだけは眉をひそめて渋い顔。船乗りの語りは大よそ事実だが、なぞが解けたのは偶然で、知恵者と思われたくはない。

 ものは言いようと世間は言うが、とんち話はもうこりごり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る