怪物の正体

 それから船は無事にカラの港に着いた。

 カラは大河と平地の国。文化や風土はベレトとそう変わらない。言葉も少し違うものの、何とか通じぬこともない。


 騎士ホラインは船の荷下ろしを手伝い終えると、酒場で会った船乗りに約束を果たせと迫る。


「約束どおり、怪物とやらを見せてもらおう」


 船乗りは肩をすくめてあきれ顔。


「まったく、あんたはしつこい人だ。そこまで言うなら、しょうがない。ちょいとオイラについて来な」


 船乗りはホラインを連れ、港の側の鳥牧場へ。



 牧場の囲いの中にいたものは、ニワトリの何倍もある大きな鳥。ベレトではお目にかかれぬ、その名はクジャク。青と緑の美しい羽根と、長い尾を持つ鳥。

 クジャクを初めて見たホラインは、これは何かと船乗りに問う。


「こいつはクジャク。これが怪物の正体さ」


 船乗りは得意な顔で言うものの、見るも恐ろしい怪物を期待していたホラインは腑に落ちぬ。


「これのどこが……」


 彼が文句をつけようとした、その瞬間、一羽のオスのクジャクが尾をおうぎのように広げて見せた。


「おお、何だ!」


 その威容にホラインは驚いた。

 尾の先の目玉模様が広がって、何十もの目がホラインを見つめるよう。


「オイラはウソはつかないぜ。青い体に、冠つけて、目には白いくま取りだ。太くて長い首は、大蛇のごとくだろう。緑色の背中の羽はウロコのようで、両のつばさはタカのごとくに模様。この見てくれで、まともに飛べるし、走るのも速い。何よりも、その尾を見ろよ。華やかで恐ろしくも美しい」


 船乗りの理屈に、「むう」とホラインは小さく唸る。


「だが、怪物とは言えまいよ」

「それはそれ。話のタネはふくらませ、咲かせてナンボのもんだろう」


 いろいろと納得しがたいものなれど、まあとにかく見事な鳥には変わらぬと、騎士ホラインはまじまじとクジャクを見つめた。



 まんまと話に乗せられて、はるばるカラの国まで海を渡って来た、騎士ホライン。

 怪物が多少思っていたものと違っていても、損をしたとは思わない。

 船酔いとセイレーンと怪物と、世は広くホラインもまだ知らぬ事ばかりなり。 


 これもまた良い経験と満足していたホラインだったが、帰りの船でまた酔った。

 船乗りたちは慣れると言うが……もう船で長旅だけはするまいと、彼は固く心に決めた。

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