なぞの答え

 ホラインは懸命に知恵をしぼったが、下手の考え休むに似たり。さっぱり答えがわからない。

 その内に、海の彼方の太陽が少しずつ明るさを増していく。霧が晴れるまで時間が無い。


 焦ってもしょうがないと、ホラインは気を落ち着かせ、瞑想して閃きを待つ。

 だが、船上は波に揺られて落ち着けない……。

 そこでホラインは、はたと手を打つ。


「わかったぞ! それは船だ、セイレーン」

「なぜそう思う?」


 わけを問うセイレーンに、ホラインは自信を持ってかいを言う。


「船はおかで造られる。だが、陸上では役立たず。水の中でも同じこと。船は水上で役に立つ。首と尾は、船首と船尾。歩きも飛びもしないから、水の上を滑るだけ。そして己の力ではなく、風と波に乗って進む。何よりも……」

「何よりも?」

「水の上では揺れてばかりで落ち着かぬ」

「ご名答。命は取らずにおいてやる。さあ何なりと願いを言え」


 難問を解かれても、セイレーンは満足げ。

 なぞなぞは解かれてこそのものなのだ。

 ホラインは願いを既に決めていた。


「では聞きたい事がある」

「ほう、何だ?」

「これより向かうカラの国には、怪物がいるという。体は青くきらめいて、頭には冠をかぶり、顔には白い入れ墨が。大蛇のような首を持ち、背中には緑のウロコが生えており、タカのつばさで空を飛び、犬のごとく地を駆ける。恐るべきは、胴より長い、その尾という。何十にも枝分かれ、その一本一本に目玉がある。怪物は人を見るや、そのしっぽをすべて立て、すべての目玉でにらみつける。その目に見られた者はみな、魂を奪われてとりこになる。……この怪物を知っているか?」

「いやまさか、さようなものが!」


 薄れゆく霧の向こうで、セイレーンは驚いていた。


 彼女は考え、考え抜いて、降参する。


「わからない! また甥やまた姪たちの仲間にも、そんなものは見たことがない。それは何だ?」

「すまないが、私にもわからない。ただ、そういうものがいるらしい。船乗りたちは知っている」

「うーむ、人間あなどりがたし」


 少しずつ霧が晴れ、セイレーンが姿を見せる。

 その正体はつばさ持つ赤い髪の清らかな娘だった。


「無闇に人を脅すのは、今日でやめにするべきか」


 そう言い残して、セイレーンは船のへさきから、朝日に燃える海の向こうへ飛び去った。

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