セイレーンのなぞなぞ

 ホラインは再び剣に手をかけた。

 たとえ女の声だろうと、魔物ならば情けは無用。相手の出方をじっと待つ。


 セイレーンは霧の向こうであざ笑う。


「力比べをしようにも、そなたはしょせん陸のもの。船の上から動けまい。ひるがえって、この私は空のもの。剣で当たるは愚か者」


 そう言われてホラインは考えた。

 確かに彼女の言うとおり、飛ぶ鳥に剣を振るって何になる。

 悩む彼にセイレーンは提案する。


「ここは公平に、知恵比べといこうじゃないか。我が難問に答えられれば、そなたのことは見逃そう」

「見逃すだけか」

「……ならば一つだけ、何でも願いを聞いてやる」

「うーむ、まあ、それで良かろう。受けて立つ」


 願いを一つと言われても、今すぐに叶えてほしい願いは無い。それなら後で決めれば良いと、ホラインはやすやすと勝負に乗った。


 かくして騎士ホラインは、霧の向こうのセイレーンと知恵比べ。



 セイレーンは勝負の前に、口慣らしの自慢話。


「時にそなた、スピンクスを知っておるかな?」

「聞いたことはある。なぞをかける魔物だと」

「そのスピンクスは私のまた姪。何を隠そう、この私が知恵を授けた」

「そうなのか」


 しかしホラインは恐れない。そもそも彼はスピンクスをよく知らない。

 無知な者が相手では、語って聞かせるがない。

 当てが外れてセイレーンは一つせき払い。


「……前口上は、このくらいにしておくか。では、問おう。おかの上で生まれるも、陸にあっては役立たず、水の中でも役立たず。首と尾を持ち、はいずるが、自らは動かずに、もっぱら何かに乗っている。しかして常に動揺し、安らかに止まりたるためしなし。これは何か?」


 セイレーンに問われ、ホラインは首を傾げた。


「何だ、それは? 赤子かな」

「人の赤子は尾を持つか」

「では、サルの子か」

「うすらトンカチめ。刻限こくげんは霧が晴れるまで。よく考えよ」


 ホラインはあぐらをかいて座り込み、船に揺られて考える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る