セイレーンのなぞなぞ
ホラインは再び剣に手をかけた。
たとえ女の声だろうと、魔物ならば情けは無用。相手の出方をじっと待つ。
セイレーンは霧の向こうであざ笑う。
「力比べをしようにも、そなたはしょせん陸のもの。船の上から動けまい。ひるがえって、この私は空のもの。剣で当たるは愚か者」
そう言われてホラインは考えた。
確かに彼女の言うとおり、飛ぶ鳥に剣を振るって何になる。
悩む彼にセイレーンは提案する。
「ここは公平に、知恵比べといこうじゃないか。我が難問に答えられれば、そなたのことは見逃そう」
「見逃すだけか」
「……ならば一つだけ、何でも願いを聞いてやる」
「うーむ、まあ、それで良かろう。受けて立つ」
願いを一つと言われても、今すぐに叶えてほしい願いは無い。それなら後で決めれば良いと、ホラインはやすやすと勝負に乗った。
かくして騎士ホラインは、霧の向こうのセイレーンと知恵比べ。
◇
セイレーンは勝負の前に、口慣らしの自慢話。
「時にそなた、スピンクスを知っておるかな?」
「聞いたことはある。なぞをかける魔物だと」
「そのスピンクスは私のまた姪。何を隠そう、この私が知恵を授けた」
「そうなのか」
しかしホラインは恐れない。そもそも彼はスピンクスをよく知らない。
無知な者が相手では、語って聞かせるかいがない。
当てが外れてセイレーンは一つせき払い。
「……前口上は、このくらいにしておくか。では、問おう。
セイレーンに問われ、ホラインは首を傾げた。
「何だ、それは? 赤子かな」
「人の赤子は尾を持つか」
「では、サルの子か」
「うすらトンカチめ。
ホラインはあぐらをかいて座り込み、船に揺られて考える。
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