大海原へ
騎士ホラインは、初めて船の旅に出る。
潮風はさわやかに海の香りを運び、波の音は耳に心地よい。船は揺れるが、酒場の主人が言うほどではない。初めて船に乗る自分を心配して、大げさに言ったのだろうと、ホラインは慢心する。
◇
しかし、
騎士たる者、衆前で失態は晒せぬと、船べりにてゲップゲップと吐き気をこらえ、空と海を交互に見つめる。視界はぐるぐる、耳鳴りがキンキンうるさい。
酒場の主人は正しかった。
これなら馬車の方がマシだと、ホラインは半時前の己を恥じる。
船乗りたちは、そんな彼を遠巻きに見て、せせら笑う。
天下の騎士も、しょせんは
船乗りの一人が、彼を気づかって声をかける。
「騎士どの、大丈夫ですか」
「何のこれしき。いくつもの死線を越えてきたことに比べれば、どうということはない」
ホラインは強がるも、この地獄がいつ終わるのかと不安になって一つ問う。
「時に尋ねたい。東の国には、いつ着くか」
「この調子なら三日後ですが」
「三日、三日か……」
三日は長いと、ホラインは空を仰いで青い顔。
そこに船乗りは言い添える。
「海が荒れれば、もう何日か遅れましょう」
ホラインは気が遠くなり、「うーん」と唸って倒れこむ。
周りで見ていた船乗りたちは大笑い。
◇
幸いに、ホラインが目を覚ました時には、船酔いは収まっていた。
船乗りたちは彼をからかう。
「おや騎士どの。こんな所で、よくお眠りで。お加減はいかがですかな」
「
「それは残念……あ、いや、良かった。さすが騎士どの、慣れが早い」
冗談を言う船乗りたち。
ホラインは起き上がって、彼らに問う。
「今、何時か」
「正午を過ぎたばかりです。まだまだ先は長いですよ」
体調は良くなったものの、今度は暇を持てあます。そんなに暇なら魚でも釣りなされと釣竿を渡されて、ホラインは人生初の魚釣り。
……しかしこれがなかなか釣れぬ。日が暮れるまで待ちぼうけて、かかったのはザコばかり。
その横で別の船乗りが、ちょいと針を垂らしただけで大物を釣り上げる。
ツキのない日はとことんついていないもの。そんな日もあるだろうと、ホラインはふて寝するより他になかった。
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