港にて

 翌朝は気持ち良く晴れ、風もおだやか、船旅日和びより

 しだいに明るむ街を駆け抜け、ホラインは船着場へとやって来た。

 港では船乗りたちが、出港の準備をしている。みな忙しく、せっせせっせと右往左往。


 ホラインは昨夜の男をつかまえて、船に乗せろと詰め寄った。


「もし、そなた! 昨夜の話、よもや忘れておるまいな」

「げぇ、まさか本当に来るとは思わなかった……」

「あなどるな。騎士に二言はありはせぬ。やると言ったら絶対だ」


 船乗りは驚きこそすれ、退きはせぬ。


「憶えているさ。しかし、船に乗りたけりゃ、それ相応の金がいる」

「いくら払えば良いのかな?」

「オイラに聞くな。船長に聞け」


 そう言われたホラインは、船長を探して回る。


 羽根つき帽子の船長は、波止場の先で海を見ていた。


「もし船長、船に乗せてくれないか」


 いきなりの騎士の男の申し出に、船長は驚いてわけを問う。


「騎士様が、いったい何の理由があって?」


 その問いにホラインは、かくかくしかじか事情を話す。

 聞き終えた船長は、にやにや笑ってあごをさする。


「ははぁ、なるほど。怪物ねぇ」

「本当に東の国にいるのだろうか?」

「まあ、いるといえば、いるにはいます」

「何、まことか! それはますますこの目で見たい」


 少年のように目を輝かすホラインを見て、船長はうなずいた。


「よござんしょ、乗せてあげます。ただし条件が」

「条件とは?」

「船旅は危険なもので、だからこそ船の上では船長が王様よりも偉いのです。もしも私の言うことを素直に聞かず、あまつさえ船を危険にさらしたら、たとえ騎士様でも海に捨てて魚のエサにします」


 船長にまじめな顔で脅されて、ホラインは迷いこそすれ、退きはせぬ。命より名こそ惜しめや騎士の道。


「……まあ良かろう。船賃は?」

「そんなものはいりません。その代わり少し荷運びを手伝ってもらいましょうか」

「お安いご用だ」


 ホラインは鎧を脱いで一仕事。

 力自慢のホラインの、力仕事は十人前。十人分の仕事を一人で片づけて、積みこみ時間は半分に。

 船乗りたちは、やんややんやと手をたたく。

 あっぱれ、うわさの冒険騎士。彼こそベレトのホライン・ゲーシニ!

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