カラの怪物
船乗りの語り
はるか遠い昔のこと。神々の時代が終わり、神と英雄の時代が終わり、そして私たち人間の時代が訪れた。
悪魔も竜もまたはるか遠い昔の物語になろうとしていた頃に、一人の旅の騎士がいた。町から町へ、夢と冒険を探して歩く、流浪の騎士。その名も冒険騎士ホライン・ゲーシニ。
大そう腕の立つ若者で、王都ベレトの騎士団では収まらないと、その身一つで冒険に明け暮れる。
◇
ある夜ホラインはベレトの東、オビアの酒場で、船乗りの語りを聞いた。
船乗りは酒を飲みながら、みなの前で得意げに言う。
「ここより東、海を渡った先の国、カラの国には怪物がいる。ゾウやトラではありえない。体は青くきらめいて、頭には冠を
何と恐ろしい怪物かと、酒場の客はどよめいた。
しかし、ホラインは鼻で笑ってヤジを飛ばす。
「そんな化け物がいるものか。私は各地を旅したが、うわさも聞いたことがない」
これに船乗りは噛みついた。
「ホライン・ゲーシニ、海の向こうにも行ったのか? しょせんあんたは
「もしも本当にいると言うなら、ぜひとも見せてもらおうか」
「おう、見せてやる! ちょうど良く、明日の船はカラ行きだ。船出は明日の朝日と同時。遅れたら置いて行くぞ。臆するな!」
売り言葉に買い言葉。船乗りは堂々酒場を後にする。
側で聞いていた酒場の主人は心配顔。
「ホライン様、大丈夫ですか」
「何が怪物、恐るるに足らず」
鼻息荒く言うホラインに、酒場の主人は小声で忠告。
「いえ、私の心配は船旅です。船酔いは弱いものはとことん弱く、大の男でも寝こむほど」
「案ずるな。荒れ道を走る馬車よりは揺れまいて」
ホラインは意地になるともう聞かない。
酒場の主人は眉をひそめて口を閉ざし、それ以上は言わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます