三つの願い

 貴族のような出で立ちで、偉そうなヒゲをたくわえた、この男が悪魔なのかと、ホラインは自ら話しかけてみた。


「つかぬ事を伺うが、もしやそなたが悪魔なのか?」

「そのとおり。私は魔神ラビターン。私のことを知っていて、ここまで来たということは、何か望みがあるのだろう? よろしい。お前の魂と引き換えに、三つ願いを叶えてやる」


 これが本物の悪魔なのかとホラインは感心し、迷わず願いを口にする。


「ではさっそく、私について来て欲しい」


 予想外の願い事に、ラビターンは驚いた。


「今何と? そんなことで良いのかな?」

「実はかくかくしかじかで……」


 ホラインはラビターンにも事情を話す。


 ◇


 ホラインの話を聞いてラビターンは不思議がる。


「私ならどんな願いも叶えられるぞ。お前を王より偉くもできる」

「それよりも竜との誓いを果たしたい」


 騎士のまま気ままに旅を続けたいホラインは、まつりごとにも権威にもこれっぽっちも興味がない。

 少しも揺るがぬホラインに、ラビターンは説得を諦めた。


「まあ良かろう。残る二つの願いを言え」

「言うものか。言ってしまえば、魂を取られてしまうとわかっているのに。とにかく私について来い。それが最初の私の願い。もちろん叶えてくれるだろう?」


 ラビターンは言い負かされて肩をすくめる。


「しょうがない。ちょうど退屈していたところ。久々に外に出るのも悪くない」


 ここでホラインの相手をするより、都で欲の深い者を探した方が、魂を多く集められるだろうと、ラビターンは悪だくみ。

 そんなことはつゆ知らず、悪魔を連れて帰ろうとするホラインを、ダーバイルは冷やかした。


「やあ旦那、悪魔を連れて歩くとは。猛獣使いもびっくりだ」


 ラビターンは口の軽そうな彼を見て、誘惑しようと声をかける。


「お前の願いも叶えてやろうか?」

「いえ結構。オレも命は惜しいんで」


 ダーバイルはへらへら笑ってお断り。欲は深いが、同じくらいに用心深い。昔語りのとおりなら、悪魔を信用してはいけない。

 当てが外れたラビターンは、ため息ついてあきれ顔。


「臆病者め、つまらぬな」


 ホラインとダーバイルと魔神とで、三人連れの一行は、ベレトの都へ帰還する。

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