旅は道連れ
ベレトの都の北は山ばかり。村はおろか、まともな道もありはしない。うわさの悪魔の城とやらも、どこまで行けばあるものか。
ホラインは何もわからぬまま旅に出る。少しの不安はあるけれど、いつも彼の心には冒険心が燃えている。旅支度を終え、いざ出発と都を発とうとしたところ、ダーバイルが彼を呼び止める。
「やあ旦那、これからどこへ行きなさるんで?」
ホラインは振り向き答える。
「はるか北、悪魔の城だ」
「これはまた、えらい所に行きますな」
驚くダーバイルにホラインは問いかける。
「何用だ? わざわざ呼び止めたからには、何ぞ用があるのだろう」
ダーバイルはへいこらして答えた。
「いえ、それは。オレもお供しようかと」
「金にはならぬが、それでも良いのか」
まじめな問いかけに、ダーバイルは胸を張る。
「金金と無粋なことは言いっこなしにしませんか。このオレも旦那と同じ、冒険家の端くれです。旅は道連れ、世は情け。一人ではお辛い旅も、二人なら案外楽しいもんですよ」
「しかしなぜ?」
いまだ疑問の晴れぬ顔のホラインに、ダーバイルは真顔で答えた。
「大金には目もくれぬ豪気に心を打たれました。男が男に惚れることは、並大抵じゃありません。つまり旦那はそれほどの人物だということです」
「……して、本心は?」
まっすぐホラインに見つめられ、ダーバイルは弱った顔になる。
「いえいえ、ウソではございません。ただまあ、ちょっとはお零れを期待しないではありませんが。それでも嫌な野郎について旅をするほど人間できておりませぬ」
「そうなのか。では、さっそく出かけよう」
こうして二人は連れ立って、ベレトの北の山を越えて行く。
◇
ホラインとダーバイルは三日三晩かけ、いくつもの山を越えた。
されど悪魔の城はまだ見えぬ。本当に悪魔の城などあるのかと、二人は不安になりながら、四日目の夜を迎える。
真っ暗な夜の森で、たき火を囲んで野宿中、ふとダーバイルはホラインにたずねた。
「ホラインの旦那はどうして騎士なのに冒険なんぞしてなさるんで?」
ホラインは木の枝でたき火を突きながら、ぽつりぽつりと答える。
「出生は田舎貴族の五男坊。剣の他には取り柄なし。都に上がり、騎士になったは良いものの、城仕えが性に合わず、さりとて戦も嫌だから、諸国放浪の旅に出た。土産話を金に換え、食うや食わずの毎日だが、まあ悪くはない」
それを聞いたダーバイルは、なるほどねえと息を吐き、己の過去を語り出す。
「オレも生まれはド田舎で、親は貧乏のロクデナシ。十二で家を飛び出して、都で乞食のまね事をしながらケンカに明け暮れて、気がつきゃヤクザのお仲間で。しょうがないから旅に出て、ヤクザと縁を断ち切って、今日この日までやって来ました」
お互いに過去を明かして夜が更ける。ダーバイルはあくびをしながら横になる。
「ここはお互い似た者どうし、明日も仲良くやりましょう」
いったいどこが似ているのかとホラインはあきれたが、はやダーバイルは夢の中。寝た者を起してまで言うこともなし、ホラインも横になる。
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