謁見

 かくしてベレトの都に着いた冒険騎士ホラインは、まっすぐ城に向かっていった。

 しかし、容易に城には入れない。やれ予約がいるだとか、紹介状はあるかなど、しち面倒な手続きを経て、謁見がかなうのは翌日に。

 しかたなくホラインは安宿を借りて一夜を過ごし、翌朝に改めて城に入る。



 謁見の間で多くの家臣に囲まれて、ベレトの王は一段高い玉座にでんとそり返っている。王はホラインに問いかける。


「久しいな、騎士ホライン・ゲーシニよ。ワシに用とは何なのか」


 ホラインはベレトの騎士。修行の旅に出ると言い、城仕えを辞めたとて、騎士まで辞めたわけではない。

 主君を前にホラインは片ひざついて深く礼。


「はい、陛下。バイダの質屋で陛下が竜の宝玉をお納めになられたと伺いました。それはまことにございますか」

「いかにも、いかにも。それがどうかしたのかな?」

「はい、実は……おそれながら、その宝玉は盗品で。どうかお返しいただきたく」

「ふむ。しかし、この世に二つとない品と、安くない値で買ったゆえ。ただで返せるものではない」


 それは道理。ホラインもただで返してもらえるとは思っていない。


「それならば、冒険騎士の名にかけて、代価を奉献いたしましょう。何かお望みはございませんか」


 ホラインの申し出に、これは良いぞとベレトの王は、無理難題を言いつける。


「なるほど、それはおもしろい。そうじゃのう……世間のうわさでは、ここよりはるか北の山に悪魔の城があるという。その悪魔をワシのもとに連れてまいれ」

「やや、それは……」

「できぬと申すか」


 うわさはうわさ、ウソかまことか分からない。あるかないかもわからぬものを、連れて来いとは無理無体。

 それでもホラインは冒険騎士、未知に挑んでこその者。


「わかりました。まことにそれをお望みならば、かなえてご覧に入れましょう」

「うむ、楽しみにしておるぞ」


 ホラインはうやうやしく王に礼をして、ベレトの城を後にする。

 何事も騎士がやると言ったなら、やってみせねば名が廃る。ダメならダメで、その時と、はるか北への旅支度。もしも悪魔がいなければ、しょせんうわさはうわさだと、ただ正直に言えば良い。騎士ホラインの心には少しの迷いもありはせぬ。

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