誇りにかけて
ホラインはすっかり金のとりこになったダーバイルを放置して、肩を怒らせ若旦那に詰め寄った。
「なぜ売った!」
「なぜも何も、あなたの質ではないのだから、あなたに断ることもない。売主とも話はついた。あなたはまったく無関係……と言いたいが、目利きのお代は払っておこう」
「目利きだと?」
「あなたが竜の宝玉だと言わなければ、私もベレトの王に売ろうとはしなかったのでね」
何という皮肉だろうか。番頭も若旦那も、ホラインがたずねて来るまで、ダーバイルの言葉を信じていなかったのに。ホラインは図らずもダーバイルの証人になってしまったのだ。
若旦那は使用人を呼びつけて、ホラインにも金貨の入った箱を渡す。
「ここに金貨一千枚、受け取ってくれたまえ」
しかしホラインは断固拒否。
「そんなものは受け取れぬ」
とにかく金より宝玉だ――と言ったところで、商売人には通じない。売った物を返せと言うは、商売人の恥である。ホラインは箱にはまったく手もつけず、さっさと質屋を後にする。
若旦那とダーバイルは声をそろえて彼を呼び止めた。
「あれ、どちらへ!?」
「知れたこと。ベレトに行って、王に直訴だ!」
いかにホラインが有名でも、王に直訴は無謀というもの。騎士と王では、身分が違う。それでもホラインは竜との約束を果たすため、一人ベレトに出発する。
◇
若旦那とダーバイルは、お互いの顔を見あって、残った金貨一千枚を見つめた。
若旦那は小さくため息。
「やれやれ、騎士とは難しい。金では機嫌も
それにダーバイルも同意する。
「ああ、まったくだ。もったいない。ホラインの旦那がいらぬと言うならば、ここは一つオレが預かっておこうかな」
「バカを言え。あんたに預けるくらいなら、ウチで預かる。
「そう言って腹に収めるつもりだろう」
「いやしくも質を預かる商人だ。他人様の物に手はつけぬ」
質屋とは銀行業のはしりである。信用なくして成り立たぬ。
ダーバイルは三千五百枚もの金貨をためつすがめつ、しばし思案。そうしてこれを持ち帰るのは骨だと思い、若旦那に言う。
「そんならついでに、オレの金貨も預かってくれ」
「それは別に構わぬが、あんたはどこへ行くんだね?」
「おっ
ダーバイルも金貨を置いたまま、ベレトの都に走っていった。
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