誇りにかけて

 ホラインはすっかり金のとりこになったダーバイルを放置して、肩を怒らせ若旦那に詰め寄った。


「なぜ売った!」

「なぜも何も、あなたの質ではないのだから、あなたに断ることもない。売主とも話はついた。あなたはまったく無関係……と言いたいが、目利きのお代は払っておこう」

「目利きだと?」

「あなたが竜の宝玉だと言わなければ、私もベレトの王に売ろうとはしなかったのでね」


 何という皮肉だろうか。番頭も若旦那も、ホラインがたずねて来るまで、ダーバイルの言葉を信じていなかったのに。ホラインは図らずもダーバイルの証人になってしまったのだ。


 若旦那は使用人を呼びつけて、ホラインにも金貨の入った箱を渡す。


「ここに金貨一千枚、受け取ってくれたまえ」


 しかしホラインは断固拒否。


「そんなものは受け取れぬ」


 とにかく金より宝玉だ――と言ったところで、商売人には通じない。売った物を返せと言うは、商売人の恥である。ホラインは箱にはまったく手もつけず、さっさと質屋を後にする。


 若旦那とダーバイルは声をそろえて彼を呼び止めた。


「あれ、どちらへ!?」

「知れたこと。ベレトに行って、王に直訴だ!」


 いかにホラインが有名でも、王に直訴は無謀というもの。騎士と王では、身分が違う。それでもホラインは竜との約束を果たすため、一人ベレトに出発する。



 若旦那とダーバイルは、お互いの顔を見あって、残った金貨一千枚を見つめた。

 若旦那は小さくため息。


「やれやれ、騎士とは難しい。金では機嫌もえぬとは」


 それにダーバイルも同意する。


「ああ、まったくだ。もったいない。ホラインの旦那がいらぬと言うならば、ここは一つオレが預かっておこうかな」

「バカを言え。あんたに預けるくらいなら、ウチで預かる。はよね」

「そう言って腹に収めるつもりだろう」

「いやしくも質を預かる商人だ。他人様の物に手はつけぬ」


 質屋とは銀行業のはしりである。信用なくして成り立たぬ。


 ダーバイルは三千五百枚もの金貨をためつすがめつ、しばし思案。そうしてこれを持ち帰るのは骨だと思い、若旦那に言う。


「そんならついでに、オレの金貨も預かってくれ」

「それは別に構わぬが、あんたはどこへ行くんだね?」

「おっかあでもあるまいに、聞いてくれるな、そんなこと。ちょいと旦那の後を追うのさ」


 ダーバイルも金貨を置いたまま、ベレトの都に走っていった。

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