質流れ

 ホラインはダーバイルを連れ、バイダの都に引き返す。帰る道々ホラインはダーバイルに問う。


「ダバ、そなた竜の宝をいくらで質屋に売ったのだ?」

「へえ、それが金貨二十枚」

「二十枚!? 質屋の奴め、千枚などと吹っかけて!」


 憤るホラインにダーバイルは不思議顔。


「いったいどういうことですか?」


 どうもこうもあるものかとホラインは、かくかくしかじか説明した。すっかり事情を呑みこんで、ダーバイルも怒り出す。


「あの質屋、何て野郎だ! 許せねえ!」

「しかし、そなたが売主ならば話は早い。金貨二十枚で買い戻せる。多少の利子がついたとしても、三十枚にはなるまいよ」



 それから二人はバイダの都の質屋に飛びこみ、番頭を呼びつけた。真っ先に口火を切ったのは、ホラインではなくダーバイル。


「おい番頭! 竜の宝を返してもらおう!」

「返せったって、あなた、それはできません」

「どういうことだ!」

「どうもこうもありません。あなた、買い戻す気はないと、はっきりおっしゃったではないですか」

「ちょいと事情が変わったんだ! 質流れは三月みつきだろう!」


 喧々けんけんと言い争う二人の前に、現れたのは質屋の若旦那。


「これこれ何をもめておる。少しは声を抑えなし。こうやかましくては客が寄りつかぬ」


 番頭はすがるような目で訴える。


「それがその、かくかくしかじか……ということでございまして」

「ふーむ、分かった」


 若旦那はホラインとダーバイルに目をやると、堂々と言う。


「あの宝玉は、ここにはない。私がベレトの国王に、金貨一万で売ってきた」


 一万枚も金貨があれば城が建つ。今まで聞いたこともない金額に、ダーバイルはひっくり返る。


「一万枚!? それを貴様、たった二十枚で!!」


 興奮する彼をどうどうと若旦那は落ち着かせる。


「まあまあ、金の話は金でカタをつけよう。さすがに安く買いすぎたと、私も悪く思っている。質屋は信用が命、悪徳とうわさが立ってはたまらない。ここは半値に八掛け二割引きして色をつけ、三千五百で手を打とう」


 そう言うと三千五百枚もの金貨を収めた箱を、使用人たちに持って来させた。

 生つばを飲んで箱を開け、輝く金貨の山を目にしたダーバイルは、一も二もなく返事する。


「へへえ、何も文句はありませんや! ありがてえ、ありがてえ!」

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