宝の番人

 土に埋まった城の中は、じめじめしていて陰気いんき臭い。小部屋の多い城内を、ダーバイルは迷わずさっさか進んでいく。


 たどり着いたは宝物庫。

 ダーバイルが燭台に松明の火を移していくと、その全貌が明らかになる。骨董物の鉄箱がずらりと並ぶ手前には、大人の倍はあろうかという、巨大な騎士の石像が立っている。

 ホラインは辺りを見回し、ダーバイルに問いかけた。


「番人とやらは、どこにいる?」

「ほれ、そこに。目の前におるでしょう」


 ダーバイルが指した先には、巨大な騎士の石像が。これのどこが番人かとホラインが見つめていると、石像がズシンズシンと動き出す。


盗人ぬすっとめ、またもこりずに出てきたか!」


 石像は怒声とともに石の剣を振りかざし、長い腕でブンとひとなぎ。ホラインもダーバイルも後ろに下がって距離を取る。


 ダーバイルが石像に向かって言い放つ。


「これほどの宝を城に眠らせて、何の意味があるという。お前に宝は使えまい。ケチケチするな、石頭」

「やかましい! 盗人には裁きの鉄槌をくれてやる!」


 石像は剣を振り回すも、ダーバイルはひらひら避けて、ホラインに押しつける。


「おっとっと。デカブツめ、お前の相手は騎士様だ! それじゃあ旦那、後は頼みます」


 それを聞いた石像は怒りの目でホラインをにらみつけた。


「騎士が盗人の味方とは世も末だな! まとめて叩き潰してくれる!」


 盗人といっしょにされては敵わぬとホラインは言いたかったが、どちらにせよ宝をあさりに来たのには違いない。


「そう言われては立つ瀬がないが、しかし私は金がいる! これも信義に報いるためだ。悪く思ってくれるなよ」


 ホラインは石像の剣をひょいとかわすと、石柱のごときその腕を切り落とさんと剣を抜く。しかし、相手は石像。太くて硬い石の腕には、剣も弾き返される。石像の腕は少し欠けただけ。


「うーむ、文字どおり刃が立たぬ」


 これにはホラインも困り顔。



 ホラインと石像の番人が戦っている隙に、ダーバイルはこっそり宝に忍び寄る。

彼は音を立てないように、そろりと静かに鍵を開けてフタを取る。


 その中身をあらためてダーバイルは思わず声を上げた。


「何だこりゃ!?」


 彼の大声にホラインも番人もびっくりして振り向いた。ダーバイルも二人を見て訴える。


「すっからかん、空の箱だぞ! これも、こっちも、みな全部! これじゃタヌキの宝箱!」


 ダーバイルは次々と宝箱を開けてみたが、どれもこれも中は空。石像の番人は膝をついてくずおれる。


「おしまいだ。バレてしまってはしかたない。ここに宝などありはしない」


 これを聞いたダーバイルは怒りに任せて番人に言う。


「ふざけるな! 思わせぶりなことしやがって! どういうことだ! 何か言え!」


 番人はとつとつと語りはじめる。


「我が主は宝を持ち去り、城を捨てた。宝物庫の番人は、時間稼ぎの目くらまし」

「そんなのありかよ! こんちくしょう!」


 ホラインは地たんだを踏むダーバイルを押さえつけ、番人をなぐさめた。


「今日まで守ってきたならば、役目は十分果たせたろう」


 役目を終えた番人は、ただの動かぬ石像に戻り、崩れ落ちる。ホラインとダーバイルは気が抜けて、その場にべたっと座りこむ。


「これじゃあ骨折り損のくたびれ儲け。まるまる時間のムダですよ」

「やれやれ。まあそれもまた冒険だ。次の儲け話を聞かせてくれ」

「そんなにうまいお話が、そうごろごろと転がってるわけないでしょう」


 ダーバイルは疲れた顔でうつむいた。


「あーあ、もう……。あの時、竜のお宝がもっと高く売れてたら、こんな所には来なかったのに」


 その一言にホラインはハッと顔を上げ、ダーバイルにたずねる。


「おいダバよ、竜の宝を盗んだのか?」

「へえ、そりゃあ。のんきにグースカ寝てたんで、その隙にちょいといただいて」


 得意げに語る彼を引っぱって、立ち上がったホラインは足早に城を後にする。


「おや旦那? いったいどうしたことですか?」

僥倖ぎょうこうだ。天は我を見放さず! 竜の宝を買い戻す!」

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