儲け話

 威勢のいいことを言い、質屋を飛び出たホラインだったが、さりとて当てがあるわけでもなく、どうにか金を工面できぬかと思案する。

 されどなかなか妙案は浮かばず、ついには酒場に飛びこんで、金になる仕事はないかと酒場の主人にたずねることに。


「おやおや、これは冒険騎士のホライン様。あなたのような騎士様が真っ昼間からお酒とは」


 冒険騎士ホラインと言えばその道ではちょっとした有名人。酒場の主人ならば人相の覚えもよく、ふらりと一度寄った場所でも気安く声をかけられる。


「違う違う。もし主人、儲け話を知らないか。とにかく金が必要なのだ」

「これはまた。お金にお困りだったとは。いかほど入り用なのですか?」

「それが金貨一千枚」

「おそろしや、これは高うございます。なかなか一朝一夕にできるものではございません」

「うーむ、やはり無理なのか」


 憎っくき金貨一千枚。鎧兜に剣もそろえ、まとめて売ってもまだ足りぬ。

 肩を落としたホラインに、話しかけてくる者が一人。


「もしもし、そこの旦那様。儲け話に興味がおありで?」


 何者だとホラインが振り向くと、みすぼらしい男が立っていた。

 酒場の主人が嫌な顔をして手を払う。


「しっしっ、この方は冒険騎士と名高いホライン様。お前のような卑しい盗賊あがりが、声をかけて良い方ではない」

「盗賊あがりとは失敬な。オレはトレジャーハンターだ。宝を探して西東、これでも立派な冒険家」


 口の回る男に対し、酒場の主人はあきれ顔で、ひそひそホラインに耳打ちする。


「ホライン様、まともに相手をしてはいけません。この男、トレジャーハンターとは名ばかりで、遺跡荒らしに墓あばき、金のためなら何でもします。うかつに話に乗りますと、何を手伝わされるやら分かったものではございません」

「それでも今は金がいる」


 ホラインは酒場の主人の忠告を聞いた上で、あえて男にたずねた。


「もし、そなた。本当に一度に大金を手に入れる、うまい話があると言うのか」

「ありますとも、ありますとも。これがうまくいきましたらば、金貨の千枚や二千枚は確実にございます。私の名前はダーバイル。気軽にダバとお呼びください」

「私はホライン・ゲーシニだ。騎士だからと媚びへつらうのはやめてくれ。うさん臭くてかなわない」

「これは失礼。いやはや、話のわかる方」

「して、儲け話とは何なのだ?」


 ダーバイルは待ってましたとばかりに話しはじめる。


「ここより西、ハバーロよりさらに西のサーコーの山中に、古城の跡がありまして。まだ手つかずの場所なので、山ほど宝が眠っております」


 これを聞いた酒場の主人は、再びホラインに忠告する。


「よした方が良いですよ。金に汚いこの男が、宝を山分けなどするわけがございません」

「いやいや、がぜん興味がわいた。いまだ知られぬ古城の探索、冒険騎士の血が騒ぐ」


 それでも騎士のホラインの冒険心は止められない。


「何はともあれ、行ってみなくては、はじまるまい」

「そう来なくっちゃあ、おもしろくありません。善は急げ、さっそく出かけにまいりましょう」


 こうしてホラインとダーバイルは意気投合して西に旅立つ。

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