宝玉を求めて
かくして冒険騎士ホラインは、竜の宝玉を探しに行く。
とりあえずはハバーロで、誰か何か知らぬかと、目ぼしい所をたずねて回る。物を売るなら質屋か古物屋――というわけで、まず古物屋に入って問うた。
「もし古物屋、緑の玉を知らないか。この世に二つと存在しない、竜の宝珠というのだが」
「ああそれなら……見慣れぬ変な男が何やら竜の宝を手に入れたとか言ってやって来ましたね」
「いつのことだ?」
「ええと、かれこれ一月は前のことだと思います」
「買ったのか?」
「いえ、それが……。たいそうきれいな玉だったので、ぜひ買いたいと申し出ましたが、これがひどく強欲な男でして、金貨百枚や二百枚では売れないと言い出して。ウチも商売、有り金はたいて買い取るわけにもいきませんので、ウチでは買えぬと申したところ、聞くにたえない暴言をわめき散らして、それならば質屋に行くと」
「あい、わかった。ありがとう」
古物屋の主人の話を聞いたホラインは、今度は質屋をたずねて問う。
「もし質屋、緑の玉を知らないか」
「おや、騎士様。このような田舎の――」
「あいさつはいい。それより男が緑の玉を売りに来なかったか?」
「ははぁ、なるほど。あの玉、やはりいわくつきでございましたか」
「やはりとは」
はてといぶかるホラインに質屋の主人は得意顔。
「いえ、みすぼらしい男には似あわない、たいそう見事な玉でしたので、高貴なお方のお屋敷からでも盗み出したものではないかと疑いまして。質屋とは信用が命。盗品を買ったとあっては面目が立ちませぬ。そこでいったいどうした物かと男に聞くと、竜の宝だの何だのとごちゃごちゃ言うものですから、まことなら都の質屋にお行きなさいと。もしも盗品だったなら都に入ることもできますまい」
「都とはバイダのことか」
「他に何がありましょう。ここらは寂しい村の他は森と畑ばかりです」
「うむ、わかった。ありがとう」
質屋を後にしたホラインは、ハバーロの村を出て、バイダの都に向かった。
◇
バイダはベレトにこそ劣るものの、田舎村とは比較にならぬにぎわいの都市。
西の都バイダに着いた冒険騎士ホラインは、その華やかさに目もくれず、まっすぐ質屋に入って行った。
「もし質屋、男が緑の玉を売りに来なかったかな?」
「おお、あなたは冒険騎士のホライン様。おうわさはかねがね伺っております」
「あいさつはいい。それより緑の玉だ」
「これは何ともせっかちな。ただごとではありませんな?」
「あるのか、ないのか」
「ええ、あります。得体の知れない男だったので、裏があるのかと怪しみましたが、さりとてここらで泥棒が現れたという話もなく。男も必死に買い取ってくれと頼みこむもので。それはもう十分値切って買い取りました」
質屋の番頭の話を聞いて、ホラインはホッと胸をなで下ろす。
「実はそれは盗品なのだ」
「何とまあ。しかしこれほど見事な輝石、どこのどなたの持ち物で?」
「ディンの森の竜である」
「……となると、これはいわゆる『竜の宝玉』にございますか?」
「そのとおり。いくら払った? 買い戻そう」
番頭に詰め寄るホラインだったが、そこに姿を現したのは、この質屋の若旦那。
「おっと勝手なことを言いなさるな。質は質でも人の質。当人以外は買い戻せぬ」
「金なら払うと言っている」
「それなら金貨一千枚。一枚たりとて負からぬぞ」
「ううぬ、ごうつく商人め」
冒険騎士のホラインは金にはとんと縁がない。金貨千枚もの大金をどこで用立てられようか。
悔しさで歯を食いしばるホラインに、若旦那は大笑い。
「ごうつく結構。金にうるさくない商人が、この世のどこにいるものか。金がないなら
商いの世界は金がものを言う。騎士も剣も役には立たず。
まさか都で剣は抜けず、ホラインは代わりに
「ならば金貨一千枚、ここにそろえて見せようぞ! 首を洗って待っておれ!」
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