竜と騎士
竜を恐れぬホラインに、何と豪気な男だろうと緑の竜は驚いた。ゆるりと首を持ち上げて、まじまじと目の前の男を見つめる。
「竜の頭をどやしつけ、話し合いとは恐れ入る」
「元より争いは望まない。先にしかけたのはそちらの方」
「何とも変わった人間だ。お前はいったい何者か」
「何もかにもあるものか。私はホライン、冒険騎士。三度も名乗る気はないぞ」
「いったい何が望みなのか」
「何かとなになにしつこいぞ。竜とはみなそうなのか? 私は冒険騎士だから、冒険するのが目的だ。古の伝説に聞く竜に会う。これほど心おどる冒険があろうか」
「ただ会いに来ただけか」
「いかにもたこにも。お前が邪悪な者ならば、打ち倒さねばならないが、無害なものを傷つける道理があるか? ないだろう」
堂々としたホラインの話しぶりに、竜はほとほと感心し、しばし言葉を失った。
やがて竜は思い立ち、ホラインに相談を持ちかける。
「お前ほどの男にならば、ワシの宝をくれても良いが、実は宝を盗まれて途方にくれておったのだ」
「盗まれた?」
「いつの間にか、ねぐらに忍びこまれてな。気づけばもぬけの殻だった」
「なぜ取り返しに行かぬのだ」
不思議がるホラインに、竜は恥じらい小声になる。
「どこの誰とも知れぬ者に、大事な宝を盗まれるなど竜の恥」
「そんな理由でありもせぬ空の宝を守っているのか? しかしだな、何もせねば泣き寝入り。悔しくないのか、これ竜よ」
「何を言う! 悔しくないはずがない。……そこでお前に頼みがある。わが至宝、緑の宝玉を探し出してはくれまいか。もしも首尾よく手にすれば、その宝玉はくれてやる。お前ほどの者になら奪われたとても名は立とう」
そう言われ、ホラインは少し考えた。彼も騎士、名誉を重んじ体面を飾る気持ちはわからなくもない。
決意した彼はすっくと立ち上がり、お任せあれと胸を叩く。
「よし引き受けた。冒険騎士の名にかけて、竜の宝玉を探し出そう」
「かたじけない、かたじけない」
竜は目を伏し首を垂れ、涙ながらに感謝した。
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