第1話
「そなたを魔術第十三階梯に任命する。同時に最年少魔術神域到達者としてこの場で表彰しよう」
「ありがたき幸せ」
魔術師シュウ・マクロスはまたも世界中の人々を驚かせた。まだ十五歳という年齢ながらも世界でも限られた人しかなることの出来ない魔術師の「神域」に到達した。彼は帝国魔術学院高等部の新一年生。幼い頃から魔術が好きだった彼は修行を行い、学院に入学した五歳の頃には魔術師として活動しても問題ない第七階梯に達していた。そして彼にはもうひとつ秀でた特徴があった。「水」「火」「風」「土」「陽」「陰」のすべての属性に長けていたのだ。彼は帝国一の魔術の才能の持ち主だった。
生命体が暮らすことのできる特別な星、地球。現在この星で栄えるのは「近代魔術文明」と呼ばれる文明だ。魔術は魔法とは違い全て思い通りに出来る様な万能の力ではない。しかし「マナ」と呼ばれる魔力を集め、正しい手順を踏めば基本誰でも使うことが可能だ。魔術はマナを媒体とし世界の理に干渉する。使用する人、媒体にするマナの量などにもよって魔術の力が増減し、相応のマナが準備できれば「神」と呼ばれる超越存在とも対等に渡り合うのも理論上可能である。その魔術文明が最も発達した国「レグリシア帝国」。現在、高度な知能と運動能力を持つ生命体である「人」のほとんどが「魔術」を使うことが出来る。しかし、使えるのは火を起こすなどの簡単なものであり大掛かりなものは使えない。実は魔術を専門に扱う魔術師という立場の人間がいる。シュウもその一人だ。彼らは功績や才能などの様々な視点から決められた魔術師階梯というもので分類されている。シュウはその中で人類最高峰の第十三階梯以上の魔術師がなることが出来る「神域」に最年少で到達したのだ。
「おはよ〜シュウ。」
「よっ、ケン。」
彼の名はケン・フェルト。シュウのような超人じみた才能を持っている訳ではないのだか、人当たりの良い性格で皆から好かれていた。シュウもそんなケンを一番の親友だと考えていた。
———あの日までは…。
「紫の太陽?」
年明けのその日、一年の始まりの神聖な太陽が紫色だなんて誰も思いもしなかった。皆が混乱していると群衆の中の誰かが呟いた。
「世界の終わりの始まりだ。」
と。次の瞬間、
———彗星が降ってきた。
彗星は見たことも無いような神々しい金色の輝きを放ちながら地球に迫ってきていた。シュウは驚いた。先日神域の称号をさずけてくださった帝国の王が一週間前ほど前に予言をしていたのだ。神からの贈り物である金色の彗星は世界に災いをもたらすだろうと。その予言が正しければあの彗星は、
「か、神からの…、で、伝説の……。」
人々は美しい輝きにみとれ我を失っていた。シュウを含めた一部を除いて。
何が起きているのか分からない今、最も必要なのは正確な情報だ。この国であの彗星を知っていそうな人物は知り合いに一人しかいない。シュウは必死に国の長老のところへ向かっていた。その長老の名はバラス・シルドレン。現在世界最強の魔術師だ。とんでもない大きさの魔力容量を持ち、二千年前の第二次宇宙戦争でも活躍した人類の英雄だ。
「あの方なら———ッ!」
長老の住む場所は火星のオリンポス山。しかし帝国の最北端の教会「ステクラス教会」が火星と繋がっていおり会うことができる。シュウはそこに向かっていた。動揺して呼吸が乱れうまく走れない。
「このペースではッ、ハァハァッ」
このペースでは着くのが遅くなってしまうと悟ったシュウは呼吸の乱れと激しい動悸を無理矢理抑え込み、
「『スタート』!」
【魔法陣起動及び術書展開】
走りながら魔力を練るという驚異的な集中力が必要なことを始めた。そして彼の『スタート』という声に応えるように左手が青く輝き始めた。その青い輝きが段々と掌に集まり辞書のように分厚い本の形を作っていく。術書だ。さらに術書の形が出来上がると同時に彼の体と同じ大きさの二本の同心円が彼の前に浮かび上がる。
「『ノート』!」
【術式空間現出及び書き込み】
術書の開かれたページのところから見たこともない言語の文字が浮かび上がってくる。その文字は同心円の中に吸い込まれていき、まるで書き込みが行われたかのように二本の同心円の間に収まった。すると複雑な図形が円の中に浮かび上がり魔法陣が完成した。
「『オープン』!」
【術式展開】
声と共に魔法陣が回転し出す。シュウは左手を引き寄せると思い切り前に突き出した。魔法陣が前方に地を滑るように飛んでいく。シュウは走る速度をあげ、魔法陣に追い付き中に飛び込んだ。シュウが中に飛び込んだと同時に魔法陣は消滅した。「Γ級空間移動」
シュウが使ったこの術式は注がれた魔力の力で入口と出口の魔法陣を繋ぎ空間を飛び越えて移動するというものだ。魔術は低難度のものから順にΗ級、Ζ級、Ε級、Δ級、Γ級、魔術師の限界とされているΒ級、二千年前世界最強の魔術師バラスが人類で始めて使用したΑ級、そして神々が使用するΩ級に分類されている。シュウが使った空間移動はΓ級に分類される高度な術だ。強力で使い勝手が良い分多くの魔力を消費する。しかしシュウはバラスほどではないがとても大きな魔力容量を持っている。Γ級の魔術程度大したことなかった。
そして到着したステクラス教会。奥の祭壇の上にある魔石に魔力を注ぐとバラスを呼び出すことができる。シュウは集中した。いつもより急いで魔力を注いでいく。その魔力に反応した魔石が紫色に光り始める。そして急に激しく光ったかと思うと次の瞬間、シュウはバラスの夢の中にいた。
次の瞬間、ステクラス教会の入り口に魔法陣が出現した。シュウが展開したものと同じだ。そして魔法陣の中からシュウが現れた。「久しぶりじゃな、シュウ」
「ちょ、長老、あの彗星は何ですか。地球はどうなるんですか。これからどうすれ———」
「待て待て、そんなに一度に聞かれても答えられん。」
バラスはシュウを宥めた。しかし実はバラス自身落ち着いていられる状況ではなかった。
「シュウよ、よく聞け。今の地球には王が言っていた通り危機が迫っている。あの彗星はだな…。」
バラスは急に言葉を切った。言おうかどうか悩んでいるようだ。しかし意を決したようでまたシュウに話始めた。
「あの彗星はだな…、まさしく神からの贈り物じゃ。今地球に迫ってきている危機のことじゃが、神々が原因じゃ。二千年前の第二次宇宙戦争では実はオリンポス十二神も戦っていた。これは儂と王だけが知っとることじゃ。神々の創造物である儂ら生命体の戦いになぜ神々が参加していたか、それはハデスが原因じゃ。」
「ハデスってゼウスの兄弟の?」
「そうじゃ。ハデスは大昔のくじ引きで世界に関わることの難しい冥界の支配権を引いてしまった。ハデスは天空の支配権を引いたゼウスを倒しこの世を支配しようとした。それに逸早く気が付いたゼウスはハデスを冥界に封印する魔術でハデスを封印した。しかしハデスもバカではない。ゼウスと互角程度に戦える力くらいは持っている。二千年ほどの時を経て封印魔術の力は弱まってしまった結界にハデスは必死に抵抗しついに術を破壊したのじゃ。それから大変なことになったのじゃ。ハデスは冥界で、ゼウスと戦う準備をしていた。悪魔や邪神といったものを冥界で密かに作っていたのじゃ。そやつらはなかなか手強く神々の手には負えなくなってしまった。そして神々は儂ら人間などに助けを求めた
———金色の彗星での」
シュウは言葉を失った。
「二千年前は多くの犠牲をはらってやっとのことでハデスをまた冥界に封印した。時が経てば封印の力は弱まってしまいハデスは暴走してしまう。人類はまたハデスらと戦う日が来ると思っていたが、ついに訪れてしまったようじゃ。」
バラスはそういうと指を鳴らし、魔術を起動した。彼は指鳴らしで世界最速で魔術の起動を行える。彼は魔術でシュウの目の前に映像を映し出した。
「こ、これは…。」
「あの彗星の模式図じゃ。彗星は実は主星と副星の連星じゃ。儂ら人類の力になるものが主星の中にあるのじゃが、主星はミスリルでできておる。」
ミスリル。別名魔力完全吸収物質。つまり魔術が効かず中にあるものを物理的でないと取り出せない。
「じゃあどうすれば」
「まぁ聞け、シュウ。じゃが、副星はオリハルコンでできておるのじゃ。」
オリハルコン。世界一固い魔術金属だ。
「じゃ、じゃあ副星を主星にぶつけてミスリルを破壊すれば…。」
「さすがシュウじゃな。着眼点が良い。じゃが、どうやってぶつけるんじゃ?周りの炎はおよそ百万度。さらにミスリルの力が付近に作用し簡単な術は弾かれてしまうぞい。」
シュウが押し黙ってしまうと、
「彗星の尾の中に入るのじゃ。そしてありったけの魔力を注いで術を放て。ただし彗星の中に入るのは次の満月まで待て。そして月と彗星が最も接近したときにせい。彗星の力が最も弱まるからじゃ。お主ならきっとできる。頑張るのじゃぞシュウ。」
バラスがそういうといつの間にかシュウはステクラス教会に戻ってきていた。
彗星の輝きは日に日に強くなっていった。彗星が地球に近付いてきているようだった。しかし次の満月まであと三日。まだ時間がある。シュウは彗星の中に入る準備を進めていた。
そしていよいよ満月の日がやってきた。シュウは国の中で最も高いタワー、アーセルタワーの頂上にたっていた。太陽よりも明るく輝く彗星が月と少しずつ重なろうとしていた。
「現在二十二時三十八分四十七秒、計画実行時刻まで残り十秒、九、八、七、六、五、四、三、二、一
『スタート』」
シュウはカウントダウンを終えると同時に術の展開を始めた。前回とは違い、二本の同心円が二組出現した。
「『ノート』」
術書からそれぞれの魔法陣に術式を書き込み、
「『オープン』」
術を起動させた。シュウが起動したのは
「Δ級大気操作」
「Γ級物理衝撃緩和結界」
の二つだ。魔術を同時に複数起動することができるのは世界でも両手で数えられる程度しかいない。「Δ級大気操作」は空気中の原子の動きを操る。「Γ級物理衝撃緩和結界」は任意の割合で結界内にかかる物理的な衝撃を緩和する。シュウは進む方向の空気をよかし、真空となったその空間に空気が流れ込むことを利用してその空気の流れに身を任せ飛んでいる。そして空気が流れ込むときに生じる風圧などを結界で緩和していた。バラスに彗星への魔術行使はありったけの魔力を使えと言われたのでなるべく魔力消費が少ない術式を選んで飛んでいる。とはいえ飛行速度は既に音速を超えまだまだ加速している。
目的の彗星が見えてきた。シュウは飛行速度を落とすと「Γ級大気操作」を解除し、
「『オープンΓ級空間移動』」
「Γ級空間移動」を展開した。そして彗星の尾の中に瞬時に移動した。
「くっ———、ぅおっ」
彗星の尾の物凄い光量にシュウは目が眩んだ。しかし常に前進し続ける彗星から離れるわけにはいかない。「Γ級空間移動」を解除し起動したのは
「『オープンΔ級光速飛行』」
最大光速のスピードまで加速出来る飛行魔術、「Δ級光速飛行」だ。予め術式の起動を行っておくことで既起動術式として、『オープン』だけで術を発動させられ、時間が短縮できる。速度を落とさず複雑な飛びかたが出来るのこの術だが大気操作で飛ぶよりも魔力消費が激しい。シュウは魔力容量が足りなくなる前にと術の起動を開始した。
「『スタート』」
「『ノート』」
「『オープンΕ級火球』!」
スタートからオープンまで一息で唱える。オープンと同時に直径十五センチメートル程の火の玉がシュウの掌に出現した。そして、
「『進化序列レベル一火球よりレベル二恒星へ Γ級恒星オープン』!」
シュウがそう唱えると掌の上の火球の炎が一気に膨れ上がりシュウの身体を呑み込んでしまいそうな程大きくなった。「進化術式」。低難度低威力の魔術に上から更に別の魔法陣を重ねていき、魔力を注ぐことで元の術が進化していき完成する高度な術だ。進化の途中で進化ラインと呼ばれる様々な分岐があり使用する進化ラインによって術の完成形が異なる。
「『進化序列レベル二恒星よりレベル三主系列星へ Γ級主系列星オープン』!」
先程の超巨大火の玉が明るく輝き、さらに大きくなった。
「『進化序列レベル三主系列星より進化ラインBレベル四青色超巨星へ Β級青色超巨星オープン』!」
火の玉の炎が赤色から温度の高い青色へと変化していく。同時に変化した大きさも彗星の副星に追い付きそうだ。
「『進化序列レベル四青色超巨星より進化ラインB最終段階へ 同時展開Γ級超重力結界オープン』!」
破壊的な大きさになった火球が周りの空間が歪む程の超重力を受け急速に小さくなっていく。そしてビー玉サイズまで縮んだ火球を見てシュウは唱えた。
「『準Α級超新星爆発オープン』!!」
声と共に火球を押し縮めていた超重力結界が解除され火球が爆発した。人類の限界を越えたΑ級に相当する程の準Α級術式の激しい炎と衝撃が周りを呑み込もうと押し寄せる。シュウは瞬時に
「『Α級アイギスの盾オープン』—————ッ!」
残りの魔力を何とか紡ぎ人類最高の防御力を誇る物理衝撃完全反射結界、シュウが使えるただ一つのΑ級魔術、「Α級アイギスの盾」を展開した。展開と同時に爆発の衝撃波が衝突してきた。シュウはその衝撃を「アイギスの盾」を使って無理矢理押し返す。押し返された物も含めた全ての衝撃波が彗星の副星に迫る。副星が定められた位置から少しずつずれていき、ついに主星に超光速で突っ込んでいった。次の瞬間、主星が砕け散る。ミスリルの壁の破壊を無事に出来たシュウは安堵して力が抜けてしまった。魔力を消費しないため、全ての術を解除する。
「————————。」
突然彗星の破片が黄金色に輝き始めた。そして光が一直線に伸びて中心に集まり始める。だんだんと球の形を形成していく。魔力が集まっているようだ。全てね破片からから魔力を受け球が大きくなっていく。ある程度の大きさになったところで球は回転し始めた。輝きが強くなっていく。すると突然、シュウが苦しみ始めた。胸の奥を穿くられる様だ。激しい苦痛にシュウは額に汗をびっしりとうかべ、遂に立っていられなくなり膝をついてしまった。
「ッくぅっ、ぅぁぁああああああああああああ————ッ!」
シュウは魔力で胸の奥にしまっていた術書を強制的にひきだされたのだ。シュウの目の前に青く輝く術書が浮かんでいる。すると突然光の球が分裂した。よく見るとオリンポスの神々の人数と同じ十二個に分かれたようだ。そのうちのひとつがシュウに向かって飛んできた。そしてシュウの術書に吸収された。術書が黄金色に輝き出す。彗星よりも明るく。残る十一個は地球に向かって飛んでいき、シュウのときと同じようにとても明るく輝いた。すると突然、光の球を生み出した後輝きを失っていた彗星の破片が今度は怪しい暗紫色に光出す。火星から一部始終を見ていたバラスは恐怖のあまり震え上がった。
バラスは今すぐに彗星に飛んで行こうとしたのだが、火星から彗星まで移動するのは距離がありすぎた。また、ミスリルの力もあり大気の薄くあまり魔力が漂っていない火星で彗星に直接干渉する魔術の魔力を練るのは至難の技だ。仕方なくバラスは指を鳴らし、瞬時に「Β級霊魂移送」を展開、意識だけシュウのところに飛ばした。
「おい、シュウ!一体どうした?!なぜあの光が生まれた?!」
バラスは必死にシュウに声をかけるがシュウは何が起きているのか理解できず声が出ない。
「えぇい、くそっシュウ、よく聞くのじゃ!あの光は十三番目、つまりハデスの光じゃ。彗星から生まれた光は術書の能力を極限まで高め、神々の力を術者に憑依させる「神球」じゃ!しかし、あの闇のハデスの力が入った光に人間が呑まれたら其奴は無事ではすまん!其奴の全てが闇に汚されてしもう。何としてでもあの光を破壊するのじゃシュウ—————ッ!!」
シュウはバラスの声を聞き弾かれたように立ち上がった。魔力容量は空の筈だったのに先程の神球のおかげか力が漲ってくる。シュウは早速術の起動にかかった。
「『スタート』!」
「『ノート』!」
「『オープンΒ級虚空移送』!」
シュウは「Β級虚空移送」を使って神球を異次元に送ろうとした。紫紺の輝きを呑み込もうと巨大な魔法陣が展開する。
「いっけぇえええええええ———!!」
しかし、
「——ッ質量が大きすぎる!?送れない!」
神球の魔力が大きすぎて転送できなかった。シュウは異次元に送ることを諦め、「Β級爆裂光線」を展開した。
「『オープンΒ級爆裂光線』!!」
当たった物全てを爆破、破壊しつくす魔術の光線が神球へ迫る。光線が当たり激しく閃光が迸る。ところが、
神球は何事もなかったかのように悠然と浮かんでいた。
そして魔力が限界まで溜まったのか紫紺の輝きを放つ神球は地球に向かって飛び始めた。
「!?『させるか』ぁぁああああああああああ————ッ!」
シュウは反射的に『オープン』を別の言葉に置換し魔術を起動するという高度な技で「Α級アイギスの盾」を展開。神球の進路を盾で完全封殺した。
「破壊できなくても、地球には行かせない!」
結界と神球が衝突した。世界最強の防御結界が神球を無理矢理停止させる。しかしピキリとアイギスの盾に罅が走った。
「ま、まさか————ッ!?」
そして神球はアイギスの盾を破壊し地球へと飛んでいった。数秒後、地球で紫紺の光が輝いた。
「そ、そんな…。」
多くのマナを消費するΑ級の術式を使ったことで魔力容量を限界まで使用したシュウは力尽きてしまい、気を失ってしまった。魔力欠乏症だ。バラスは早急に処置が必要なシュウのため「Β級霊魂移送」を解除し、奥の手を使いシュウのところまで向かおうとした。
「『…■…■■……■』」
術を唱えた本人でなければ聞き取ることさえ出来ない不明の言語を唱える。漆黒の魔法陣がバラスの前に展開。太陽の光を反射せず吸い込まれそうな闇がそこだけに存在する。「魂削術式」だ。マナを集められないときや、単にマナを練るより強力な魔術を使用出来るので自分の魂を削って術式の媒体にする。魂の形や性質は人によって違うため術を唱えた本人でなければ理解する事は出来ない。バラス程の人物なら魔力濃度の薄い火星でも大量の魔力を練ることは可能ではあるが、二千年前の第二次宇宙戦争で使用した「Α級天変地異」の代償としてバラスの身体には『天樹の怒り』という呪術が刻まれている。これが魔術の起動を阻害し、バラスでさえ魂を削らずには術が展開出来なくなっている。「Α級天変地異」は本来神々の使用する魔術の中でも五指には入る超高難度の超絶破壊力を持つΩ級術式である。それをバラスは超人的な技能を駆使しΑ級レベルの魔力で起動出来るよう術式を「改変」したのだ。しかしその魔力の消費に見合わず星ごと滅ぼす様な破壊力と度をこえた宇宙、空間の破壊に、この世の全てに「マナ」と呼ばれる魔力の供給を行う「天樹」が危機を察知した。バラスはこれにより身体に『天樹の怒り』を宿し、魔術師として強大なハンディを負った。思うように魔術が使えなくなってしまったバラスは火星で残りの人生を過ごそうとした。とそんな矢先彗星が落ちてくるなどということが起きてバラスは魔力があまり使えず魂削術式を使わざるをえなくなった。そして度重なる魂削術式の行使により魂が摩耗しシュウだけでなくバラスまであまり大丈夫とは言えない状況だ。今、魂削術式でΑ級の術式を起動するのは自ら死を選ぶ様なものだ。にもかかわらずバラスはシュウのところに向かおうとしている。それほど地球は、いや宇宙は危機に陥っているのだ。バラスは展開した魔法陣の中に飛び込んだ。
突如空から現れた紫紺の光に■■は激しく動揺していた。周りにいる人もその光に怯えるばかりだ。すると突然その光の正体である神球は溜まった魔力を行使し、■■の術書を無理矢理展開させた。
「————————————ッッ!?」
身体中を走る激痛に耐えられず■■は思わず膝をついた。そして展開した術書に神球が吸収される。次の瞬間、■■の術書に神々の力が宿ったことを示す「神紋」が現れ、更に強い紫紺の輝きを放つ。神紋は■■の精神を蝕み、人間には本来ない「闇」の属性を開花させた。ハデスの神紋だ。■■は神紋によって を倒すことしか考えられなくなった。
殺人鬼■■は動き出した。
バラスは魂削術式を使いシュウのところに移動した。シュウは容量を越えた魔力の行使により気を失っていた。更に神紋によりかろうじて耐えているが術書も危険な状態だった。このままではシュウもバラスのように魂を削る羽目になるかも知れない。バラスは迷わず決断した。
「『此より我は神の教えに背く
魔術の神髄
術書の主としての役目
放棄する
盟約に誓い我が身の完全なる消滅を
代償とす
我の魂 彼の者に捧げよ』」
大規模な魂削術式の代償によりバラスの口から血が溢れた。
「これが、我の、最期の術式になるであろう、ッ———、かはッ」
バラスは最後の力を振り絞り唱えた。
「『オープン』」
バラスの体から淡い光を放つ球体が抜けシュウの胸へと納まった。
「頼むぞ、シュウ……。」
次の瞬間バラスの肉体は砕け散り、虚空へと消えていった。
「ハッ!お、俺は……?」
シュウはバラスが消えてからすぐに目を覚ました。バラスの声が聞こえた気がしたからだ。
「長老は、どこだ?」
バラスはどこにもいない。すると突然術書が光りだした。魂紋という術書の主がシュウである証と神球が納まっている証が刻まれている。しかしよく見るとシュウの魂紋に見慣れない模様が混じっている。いや、シュウはこの模様を見たことがあった。
「もしかしてこの模様は長老の魂紋……?」
シュウの魂紋にはバラスの魂が納まった証としてバラスの魂紋の一部が刻まれたのだ。魂紋は一人につき一つしか存在しない。それはつまりバラスの死を意味していた。
「ちょ、長老……?長老ぉぉおおおおお——————ッ‼‼」
再来のコスモリフォーマー 霧空 春馬 @0102iwai
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