第36話 武器選び
俺は今、憂鬱な気持ちで武器庫にいる。
だって、コルトにあんなこと言われたんだもん。仕方ないよね。
ここまで来る時も、この気持ちは変わらなかった。
「……ミツル。気にしなくていい……」
「そうですわ。ミツルさんの戦いぶりを見せて、見返してやりましょう!」
「お、おう……」
エザの言うことも分かるが、俺が弱いのは事実だしなぁ……。
頑張るとは決めたものの、このままだと見返せるかどうか……。
「……ん、大丈夫……。ミツルが頑張ってること、私は知ってる……」
「ローズ……。そうだな。ありがとう」
「……ん」
そうだ……。俺は決めたじゃないか。自分の望む姿になるために頑張るって。
ローズも頑張ってるんだ。俺だけじゃない。
……負けてられない。頑張ろう。
コルトの言うSクラスに相応しい、実力者になるために。
……見とけよコルト!絶対にギャフンと言わせてやる!
「そうそう。僕も応援してるよ。ミツル君」
ボーグンがそう、ニヤニヤしながら俺に言ってきた。
なんでニヤニヤしてるのか全然分からんけども……その顔めちゃくちゃ腹立つ!
「……なにニヤニヤしてんだよ」
「いや〜?別に〜?」
「その言い方も腹立つな!おい!」
「そこ!静かにしろ!全員集まったようだし、武器庫の説明を始めるぞ!」
注意されちゃったじゃん……。
これも全部ボーグンが悪いね間違いない。
「今いる武器庫は、このSクラス専用のものだ。ここにある武器は、自由に使って構わない。ただし、今から選ぶ武器は完全に自分のものとなる。では、自由に選べ。決まれば、私に言ってその武器を渡すように。使うには、申請が必要だからな。申請はこちらの方で済ませておくので、心配するな」
「「「「はい!」」」」
そう返事をして、皆は各々自分が求める武器を探し始める。
流石はSクラスだな。すでにどんな武器を使うのかを決めている人が多い。
「では、私たちも探しに行きましょうか。と言っても、一人一人武器も違うと思いますし……。個別にします?」
「そうだな。そうするか」
「……私は、ミツルと一緒に探す。まだ、決まってないから……」
「OK。じゃあ、また後でね」
「私も失礼します」
エザとボーグンはそう言って、自分たちの求める武器のところに向かった。
えっと……これ、どうしたらいいのん?
先に俺の武器を見に行っていいのか?それとも先にローズの武器を選ぶのが正解なのか?
……駄目だ。分からん。
男として情けないことかもしれんが、ここは聞くしかないな。
「な、なあローズ。どっちの武器から見に行く?」
「……?私はまだ全然決まってないから、ミツルからでいい」
「お、おう。了解。じゃあ行くか」
……とは言ったものの、武器庫が広すぎてどこにどんな武器があるのか、全く分からん。
俺の目当ては片手剣と盾だけど……マジでどこにあるんですか?これ。
「あら?ミツル。どんな武器を探しているの?」
行き場所が全く分からず、キョロキョロしていると、アテナさんが話しかけてきた。
正直、めちゃくちゃ嬉しい。だってマジでどこにあるか分からないんだもん。マジで広すぎるんだよな、この武器庫。
「アテナさん。実は、片手剣と盾を探してるんですけど……。場所に心当たりとかないですか?」
「片手剣と盾?それなら、どっちもあっちの方にあったはずだけど……」
そう言って、アテナさんは武器庫の奥の方を指差した。
よりによって一番遠いとこにあんのかよ……。
……まぁ、まだ片手剣と盾がそれぞれ別々の場所にあるよりマシだけど。
「なるほど。ありがとうございます。よし行こう。ローズ」
「……ん」
俺はアテナさんに礼を言って頭を下げてから、ローズを連れてアテナさんに教えられたところに向かう。
一番奥につくと、俺の求めていた片手剣が沢山置いてあった。
「……どれがいいの?これ?」
ぶっちゃけ、武器選ぶのなんかやったことないし……。
なにを基準に選べばいいのん?
「……持ってみて、手に馴染むやつでいいと思う……」
「お、おお。なるほど」
試しに一番近い剣を持ってみる。
そしてその剣を元に戻し、その隣の剣を持つ。
……うん。変わらくね?よく分からんぞい。
また剣を戻し、三本目の剣を取る。
……ん?これ……なんかいいな。うん。いい。これだ。これがいい。
「これにするわ。これを握ったときにこれだと思ったから」
「……ん。いいと思う……。盾は……?」
「うーん……。そうだな……」
俺はそう言いながら、片手剣のブースの隣にある盾のブースの中から、適当に一つ手に取る。
……お。これもしっくりきたぞ。
……うん。構えても問題なし。これにしよう。
「この二つが一番良かったし、この装備でいくわ」
「……ん。いいと思う……。似合ってるし……」
「よし!じゃあ次はローズだな。何にする?」
「……そこにお兄ちゃんいるから、先に渡してからにしよ……?」
そう言われて、ローズが指差した方を見ると、言う通りジェラー先生がいた。
確かに、近くにいるなら先に渡してしまったほうがいいかもしれない。
なんだかんだ言っても重いし。剣と盾。
……こんなんで戦っていけんのか?俺。鍛えないとなぁ……。
「そうだな。そうするか」
俺はそう言って、ローズと共にジェラー先生の元へと向かう。
すると、ジェラー先生は近づいてきた俺たちに向かって、俺たちより先に口を開いた。
「決まったのか?ローズ」
「私は、まだ……。ミツルが決めた……」
「なんだ……。貴様か……」
そ、そんな落胆しなくても……。
シスコンなのはよく分かったけど、生徒に向かってその態度は教師としてどうかと思います……。
「は、はい。これです」
俺は手に持つ剣と盾をジェラー先生に渡す。
ジェラー先生はその二つをじっくりと確認しだした。
「……よし。分かった。申請しておこう」
ジェラー先生はそう言って、目の前にあった俺の名前が書かれた箱に、その剣と盾を入れた。
見ると、他の生徒たちの箱も、その多くに武器が入っていた。
「……あれ?ローズは?」
俺がジェラー先生に武器を渡している間に、どこかに行っちゃったのか?どこに行ったんだ?
そうやってキョロキョロと見てみると、生徒たちの箱があるブースの右隣のブースにいた。
俺はローズの元まで行き、話しかける。
「ローズ?何して――」
そう言ってローズの手元を見てみると、二本の短い剣があった。
見たら分かる。逆手持ちのやつやん。
……え?ローズ、近接武器にするの?スキル的に、遠距離とかのほうがいいと思うんだが……。
「えっと……。それにする、のか?」
「……うん。これがいいと、思ったから……」
「……そっか」
……ローズが自分の意志で決めたのなら、何も言うまい。
……だが、約一名、めちゃくちゃ言う人を想像したのは、俺だけではないだろう。
「お兄ちゃん。これにする」
「おお!決まったのかローズ!……って、近接武器じゃないか!やめておくんだ!怪我しちゃうぞ!?」
……ほらみろ。予想通りだ。
「……これにする」
「いいややめておけ!お兄ちゃんは何度でも言うぞ!ローズの為なんだ!」
「いい加減にしなさい」
圧倒的シスコンを披露していたジェラー先生に、アテナさんの恐ろしく早い手刀が襲う!俺でなきゃ見逃しちゃうねぇ!
……嘘つきました。全く見えませんでした。完全に見逃してました。はい。気づいたらジェラー先生が倒れてました。一回言って見たかったんです。許してください。
「ローズさん。それに決めたのね?」
「……はい」
「分かったわ。私が確認して入れておくから、教室に戻っていいわよ」
「……分かりました。行こ、ミツル」
「え?お、おう」
ローズに手を引かれ、この武器庫の出口に向かう。
俺たちが武器庫の出口に着いても、ジェラー先生は目を覚まさなかった。
……ご愁傷様です。ジェラー先生。
俺は、自分の左手とローズの右手が繋がっており、自分の手を合わせることができないので、心のなかでジェラー先生に合掌を送り、ローズと共にこの武器庫を後にした。
元ラノベオタクの転生勇者はチートスキルを使わない 辻谷戒斗 @t_kaito
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