ヒーローになりたくて溺れたボクの末路

くたくたのろく

ヒーローになりたくて溺れたボクの末路

ボクはヒーローになりたかった。

 小さい頃“ヴィラン”に襲われてヒーローに助けられたボクが、その大きな背中と強さと差し伸べてくれた優しい掌に、憧れないわけがなかった。

 強くなりたくて努力した。

 勉強も、トレーニングも。

 小さくひ弱だったボクは大きくなって、今度は人助けをするようになった。

 困っている人の、僅かばかりの手助けを。

 悲しんでいる人に寄り添えるような優しさを。

 間違ったことをしようとしている人へ諭せるような慈しみを。


 そしてヒーローになりたかったボクは、晴れてヒーローとなった。


 助けを呼ぶ人の元へ行き、助けた。

 ヴィランが邪魔するなら徹底的に倒して、

 国がリストアップしてくれた世界の要人たちを保護し、


 ボクは多くの人を救い、助けた。

 命を、心を、傷を、悩みを。

 ボクはボクが憧れたヒーローになれたんだと――――嬉しかった。


 ある日ボクはヴィランに石を投げられた。


 お前のせいだ。

 お前のせいであの人たちは死んだ。

 悲しんだ。

 苦しんだ。

 どうして。

 ヒーローなら、

 なんで。

 どうして、


 ――――――守ってくれなかったんだ!


 そのヴィランは仲間の一人によって倒されてしまったけど、ボクは彼の言葉が頭から離れなかった。

 仲間たちは騙そうとしてきたんだと言うが、ボクにはそうは思えなかった。


 ボクに何か落ち度があったのかもしれない。

 救ったつもりで取りこぼしてしまった者がいたのかもしれない。

 ボクは今までのヒーロー活動履歴と、救ってきた人たちの人間関係を全て洗い出してみた。

 世界中の人々を助けてきた。

 困ってる人、悲しんでいる人、泣いてる人、怒っている人。

 手を、差し伸べてきた、つもりだった。


「……………」

 ボクは、気付いてしまった。

 どうして気付かなかったのか。

 なんで分からなかったのか。

 考えれば、いや――考えなくても分かったはずなのに。


 今まで救い、助けてきた活動の裏で、苦しむことになった人々のことを。


 例えば虐められていた子を助けるために虐めっ子を更生した。だけどそれにより虐めっ子は逆に虐められる立場に変わり、自殺していた。

 例えば彼氏から暴力を受けていた彼女を助け、説得し、暴力をしないと誓わせた。だけどそれにより、行き場のないストレスをため込んだ彼氏は自傷行為をするようになり、それを止めようとして彼女を殺してしまった彼氏は、精神を病んで現在は精神病院に入院していた。

 例えばトラックの前に飛び出してしまい、轢かれそうになった少年を助けた。だけどそれにより、少年は再びヒーローの姿を見たいと道路に飛び込むことが増え、そして今度こそトラックに轢かれて死んでしまった。

 例えば難病に苦しむ人々のために新薬を研究していた科学者をヴィランから救った。だけどそれにより、研究過程での副産物として生まれた劇薬を国が対立する国家を脅すために使い、植民地化した国民は奴隷のように虐げられていた。


 ――人間は弱い生き物だ。

 それをボクは知っていたはずなのに、本当の意味で理解していなかったのかもしれない。


 救いがあるから絶望がある。

 希望があるから救われない。


 正義も悪も表裏一体。

 希望も絶望も隣り合わせ。


 ヒーローがいたとしても世界中の全ての人々が救われるわけじゃない。

 むしろ救ったぶんだけ犠牲が生じているのかもしれない。


 ボクはヒーローを辞めた。

 多くの人々がボクの引退を嘆いてくれた。

 でも多くの人を救うには“ヒーロー”ではダメなのだ。



 だからボクは、ヴィランの参謀に就いた。



 最初はもちろんヴィランも警戒していたが、今では「司令官様ぁ~」と気兼ねなく声をかけてくれるようになった。

 それもきっとヴィラン側につきたいとボスの前で自分の耳を切り落としたのが良かったのだろう。

 てっきりその覚悟を買われたかと思ったが、ボスには「お前は良い感じに狂ってる。確かに“こっち側”だな」と笑われた。


 ボクの耳はもうその機能を失ってしまった。

 何も聞こえない。静かな闇の音。

 だけどヴィランの声は頭の中に響いてくるので、意思疎通には困らない。


 誰かが泣く声も、助けを呼ぶ声も、ボクの耳には何も聞こえない。


「司令官様ぁ~! 今度こそヒーローを血祭りに……!」

「司令官様ぁ~! 人間が重要施設建設してるみたいなので、破壊しましょう!」

「司令官様ぁ~!」

「司令官様ぁ~!」

「司令官様ぁ~!」


 しかし生憎と騒がしい。

 頭に響く言葉たちに苦笑いを零しながら後ろへ振り返ると、そこには人ならざる者たちが集結していた。


「――――作戦はすでに立ててある」


 ボクは声高に言った。そうすると彼らは一斉に黙り込んでボクの言葉に耳を傾ける。

 作戦はこうだ。

 とある国で人間が核兵器を作っている施設があるらしい。その強襲と、現れるであろうヒーローたちの抹殺。

 作戦に向かわせる者の名を呼び、出撃させる。


 当然ながらヒーローはすぐ駆けつけられるわけでない。

 一撃でヴィランを一網打尽に出来る兵器は早々に使いモノにならないようにし、あとは………

(いつものイタチごっこさ)

ヒーロー側の戦力より少し強いくらいの戦力を投入しておいた。これでお互い消耗戦を余儀なくされ、土壇場で力を発揮するヒーローによってヴィランは撤収する。


 これでいい、これで。


 ヒーローが誰かを救えないように適度にヴィランで妨害し、お互い死者を出さず、戦力がどちらかに偏ることがないようにすること。

 これがボクの使命。

 これがボクなりの、世界の救い方。


 これなら必要以上に悲しむ人はいない。

 救ったことによる被害は生まれない。


ヒーロー正義”と“”の均衡さえ保っていられれば。


 きっと、世界は【平和】だ。






 頭を打って意識が朦朧とする中、ボクは部屋を見渡す。

 あれだけいたヴィランはもうみんな倒されてしまった。


「~~、~~~~~!」

 目の前で派手な色のライダースーツを着た男が、無様に壁に寄りかかっていたボクの肩を強く掴んだ。

「~~~~~~~~~」

 ヴィランと違って男の言葉を聞き取ることは出来なかった。

 でもなんとなく分かる。


 なんでだよ。

 なんでお前が。


 彼らは元仲間であったボクが、まさかヴィランの参謀になっているとは知らなかったのだから当然か。

 ボクからすれば、いつの間にこちら側を上回るほどの戦力を隠し持っていたのか問いたいところだが。


 ――あぁ、せっかく保たせてきた均衡が。

 もうダメか。

 やっぱヒーロー強いなぁ。


「~~~~~~~~~、~~~~~~~~~~~~~」


 男が何かを言いながら手を差し伸べてきた。

「……」

 大きくて優しい掌。

 小さい頃助けてくれたヒーローの面影が、目の前の男と重なる。


 ボクは小さく笑った。



 ボクはヒーローになりたかった。

 強くて優しくて格好いい、そんなヒーローに憧れた。




「――もっと。もっと世界が単純だったら……」

 小さい頃ボクが見ていた、小さくて単純な世界だったなら。

 救いに満ちあふれた世界だったなら。

 希望ばかりの世界だったなら。


 ボクは手を伸ばして男の手にそれを重ね―――反対の手で壁に埋め込まれたボタンを強く押した。


 いつかこの日が来るであろうと用意していた起爆スイッチが起動する。

 ほとんどのヒーローはこのヴィランの基地へ集結しているはずだ。

 これで両陣営は壊滅的な損害を受ける。



「この世界にヒーローもヴィランもいらないんだよ」




 男が目を見開いて何かを言おうとした。


 だけどその瞬間――世界は真っ白になった。








「俺はただ、お前を助けにきただけなんだ――!」


 自ら耳を削ぎ、誰の声からも目を背けてきたボクに、本来告げるはずだった男――友の声は、届くことはなかった。

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