第8話 売店のおばちゃんはモテ期が終わらない

「やぁ、母さん」

「あら、もう来たの?昼前なんて珍しいじゃない」

「母さんの昼休憩が11時台だから、それに合わせたんだよ」

「それはうれしいことだけど仕事のほうはいいの?」

「大丈夫だよ。今日は土曜日だから忙しくはないし、外部からの問い合わせや商談もほとんどないし」

「そうなのね。なら私もお店を自立モードにするからちょっと待ってて」

「じゃあ、向こうのテーブルで待ってるから」

「オッケー」


「お待たせ、じゃあ食べようか」

「うん」

「で、あんた、私なんかとお昼ご飯食べていていいの?」

「食べ始めていきなりの質問かよ。別いいんだよ。母さんと食べる方が気楽だから。もっと言うと一人でゆっくり食べる方が好きなんだけどな」

「そんなんだから彼女が出来ないのよ。もっと社交的になりなさい」

「これでも社交的なほうなんだけど・・・ただ一人の時間、落ち着ける時間を大切にしたいだけなんだよ」

「それはわかるけど。あんまり一人でいると、最終的には行き遅れになるわよ」

「縁起でもない言わないでくれよ母さん。いちおう、気にはしてるんだから・・・」

「気にしてる割には積極性が足りないと思うけど」

「恋愛とかに関して臆病なのは認めるよ。でも臆病なぐらいがちょうどいいでしょ。俺が前のめりになって変な女に引っかかるよりはましだろ」

「それはそうだけど。まぁ、あんまりゆっくりしすぎないようにね」

「わかってる、わかってるよ」

「それよりさ。またすごいことが起きたのよ!」

「面白いことの間違いだろ、それを言うなら」

「またそうやって言う」

「で、こんどは何?」

「私、告白されちゃったのよ~」

「母さん、それ、俺に言う」

「はははは、そうよ、あなたに言うわよ。アラフィフの私に負けてるわよ」

「それ言うな!っていうか告白されるなんていつものことでしょ。どうせ今回も禿たおじさんとかからでしょ?」

「実は違うのよ、今回は私もビックリしちゃったのよ!」

「今回はイケメンから告白されたとか?」

「本当は告白っていうよりかはデートのお誘いなんだけど・・・・学生のからなのよ・・・・」

「はぁ~!!!!」

「いや~どうしようかと思っちゃったわよ」

「ちょっと待ってくれ母さん!!詳しく状況を説明してくれない?」

「一昨日なんだけど、普通に仕事してたのよ。ここの会社ってインターンシップとか社会見学とか職業体験に積極的でしょ、それでおやつ時になるとやたら学生さんが多く来るのよ。最近よく来る五人組の男子学生がいるんだけど、どうやらインターンシップみたいなの。でその中でやたらと私に話しかけてくる子が一人いるのよ。その子を他の四人が急にはやし立てるから、どうしたの?って聞いたら。その子が私のこと好きだってことを私の前で四人がばらしたのよ」

「その四人ちょっとひどいな」

「ひどいかどうかは別として。その子、顔を真っ赤にしてたんだけど何かを決断したように私に向き直っていったのよ。ここで就職することが決まったから初給料をもらったら一緒にディナーに行ってくださいって」

「おおおおぉ~、言った勇気は俺も認めるな。でもアラフィフのおばさん相手にディナーって何が楽しんだか」

「あんた、次また私の年齢を馬鹿にしたら夕食抜きにするわよ」

「なにを今更、事実を述べたまでだよ母さん。それと、夕飯抜きにしても自分で作れるからいいし」

「チッ。こういう時、あんたに家事なんて教えなければよかったって後悔するわ」

「それはいいとして。で、その後どうなったわけ?」

「私もちょっと舞い上がっちゃって、OKしちゃった」

「勘弁してくれよ母さん。言っとくけど犯罪だから。向こうさん未成年だろ?なら母さんが捕まることになるからな」

「えっ!?そうなの?そういうのって男の人が女子学生に手お出すときにだけだと思ってた」

「いい歳した女性が男子学生に手を出しても同じだよ。俺が身元引受人で警察に行くのだけはやめてほしい・・・」

「そうなんだ。わかった、気を付けるわ。でもたぶん大丈夫よ」

「大丈夫ってどういう意味?まったく大丈夫な感じはしないんだが」

「それがね、私が余計なこと言っちゃったのよ」

「余計なことって?」

「あなたのこと言っちゃったのよ。自分の息子より若い子にデートに誘われるなんて嬉しいわってね。そしたら5人とも固まっちゃったのよ。デートに誘った子はすぐに我に返って聞いてきたの、息子さんいたんですかって」

「もしかして向こうさん母さんがアラフィフだって気づいてなかったの系かよ!!」

「うん、そうだったみたい。あなたたちより一回りぐらい年上の息子がいるのよっていったら周りの四人がなんか、ドンマイとか、諦めろとか、告白した子に言うのよ」

「俺でもその場にいたら同じ言葉をかけるな」

「でもその後がさらに面白いのよ!」

「まだ何かあるのかよ」

「告白してきた子がね、あなたが何歳でも子供がいても構いません、友達からでもいいので付き合ってくださいって言うのよ。久々にちょっとときめいちゃったわ、うふふふ」

「マジかよ・・・」

「あそこまで言われちゃあね、こっちも本気で相手にしてあげなきゃ失礼だから初給料のディナーに行くことにしたわ」

「母さん本気か!さすが新しいお父さんが自分より年下は洒落にならん」

「別に付き合うとか結婚するとかはないから、向こうも友達からって言ったんだし。お互いのことをもう少し知ろうってだけよ。それに、そんなに心配なら一緒に行く?」

「いいや、いいよ。遠慮しておく。どうぞ若いこと楽しいデートしてきてください・・・マジかよ、母さんにすら負ける俺の恋愛運ってなんだよ・・・」

「恋愛に運なんてないわよ。あるのは恋したいかしたくないか、愛したいかしたくないかだけよ。まぁせいぜいお母さんが再婚するより先にあんたが結婚しなさいよ」

「励ましてるのか、馬鹿にしてるのか、期待してるのか、何とも言えない言葉だな母さん。まぁ、頑張ってみるよ。っというよりもうそろそろ俺は仕事に戻らなきゃ」

「わたしもそろそろ売店に戻らなくちゃ」

「それじゃあ母さん16時過ぎに迎えに暮れから」

「わかった。そういえば・・・・」

「何まだ何かあるの?」

「今日やたらと技術部の人たちが忙しそうだけど、何かあったの?あんた知ってる?」

「技術部が?知らないけどまた何かの大掛かりな実験でもしてるんだろ」

「ならいいんだけど・・・・技術部近くの販売機の補充に行ったらなんだかみんなピリピリしてたのよね」

「なら念のため技術部に顔を出してみるよ。長時間労働とかだったら問題になるからね」

「そうしたほうが私もいいと思うわ」

「それはそうと、本当にもう行くわ。飯一緒に食べてくれてありがとうね母さん、じゃあ!」

「うん、今度は人事部のかわいい子たちもつれてきなさいよじゃあね!」

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