アンドロイド

「工場長、ロボットとか作れないの?」

「ロボット、か……」

 少年の年齢は、フレッドとそう変わらない。このような期待に満ちた視線を受けていたかつての主人を想い、工場長と呼ばれているアンドロイドは少年の頭を目一杯撫でた。焚き火の炎によって金属の掌は温かくなり、人工皮膚に人肌の温もりを与える。冷たい手では自らの正体が露見しかねない、と老成したアンドロイドは考えていた。


「そうだな。君のように若ければロボットを作るのも夢ではなかったかもしれない」

「えーっ、作らないの?」

 作らないのではなく、作れないのだ。アンドロイドは答えそうになった回答を飲み込み、唇を結んだ。

 工場機械の使い方も覚え、設計図の読み方も覚えた。それなのに、ロボットはおろか玩具さえ自分で作ることができない。できることと言えば、既存のものの修理か改良程度だ。

 いくら生き方や行動を模倣しても、アンドロイドには機能の限界がある。恐らく、自分は造られる側の存在で、造る側には立てないのだ。彼はそう結論付けた。


 遠くの空に落ちる太陽が夜の訪れを知らせる。アンドロイドは焚き火の炎を消すと、少年に帰宅を促した。

「帰りなさい。親に嘘を吐いた事を謝って、もう来るんじゃないぞ……」

「まだ直してほしいオモチャいっぱいあるのに?」

「……今度は一括で持ってきなさい」


 エネルギーの供給は未だ止まらず、彼の生存を保証し続けていた。アンドロイドはこの土地の下で眠っている主人を思い返し、静かに煩悶する。


『本当に、これで良かったのか?』と。

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ピノッキオの告解 @fox_0829

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