(3)
スーパーサイヤ人モードはなんとか脱したけど。必ず守って欲しいと念を押したにも関わらず、約束をあっさり
「ごめんね……すっごく悩んでた篠田くんが、今日はすっきりした顔で出てきて。なんか、いきなりエンジン全開で勉強しだしたから、どうしたのかなあと思って」
「どうしたのかを、ぺろっと部長にしゃべったわけですよね」
「……」
部長の声がどんどん小さくなる。
「ううん。わたしがねだった……いや、追い詰めたの。一人だけすっきりは、ずるいって」
「へ?」
そんな、クラスメイトの追求くらいであっさり陥落するってことは絶対にないでしょ。篠田先輩、すごくまじめそうだったし。待てよ? つーことはまさか……。わたしの目は、普段の三倍くらいでっかくなっていたに違いない。
「ま、まさか。部長と篠田先輩って」
「……」
部長の直接の返事はなかったけど、真っ赤になってるから事情はわかる。二人は付き合ってるってことだ。
しまったあああっ! 二人の関係がわかった瞬間、まんまと罠にかかっちゃったことに気付いた。いや、部長が罠を仕掛けたわけじゃない。かまをかけたわたしが、自分で墓穴を掘って落ちちゃったんだ。しょうもない自爆じゃん。大失敗。ううう。
篠田先輩に求めた、夢視のことを学校で漏らすなという約束。その約束を破ったことを責めるなら、わたしは篠田先輩と部長との付き合いもトップシークレットとして抱え続けなければならない。
夢視で人の秘密を持たされるって言っても、他人の夢なんかわたしには何の意味もないんだ。興味もないし、突っ込むつもりもない。だから、夢視で知った依頼人の事実に関してわたしが守秘義務を徹底するのは難しくない。でも、部長と篠田先輩との関係は夢視と一切関係ない上に、ブレイバリー命の咲にもろ絡む。き、きつい……。
だめだー。こういうことがあるから学校関係者の依頼は一切お断りだったのに。やっぱり、篠田先輩の依頼は断るべきだった。でも引き受けちゃった以上、責任は篠田先輩にではなくわたしにある。仕方がない。そもそも、お母さんの軽すぎる口が諸悪の根源なんだよ! 帰ったら、ぎっちりねじ込んでやるっ!
わたしの憤怒の表情を見て、部長は夢視を諦めたんだろう。素直に謝った。
「ごめんね。変なこと頼んで。聞かなかったことにして」
「いや、いいですよ。視ますよ。ただし」
「うん」
「君にだけ話すけど第三者には漏らさないでっていうのは、言い訳です。『君にだけ』ってのは誰にでも言える。そんなの付けても、なんの免罪符にもならないです!」
「う……」
「部長と篠田先輩の関係がどうあれ、あっさり口を割った篠田先輩も、聞き出した夢視をしれっとわたしに頼む部長も、わたしにとっては絶対信用できない人。部長と篠田先輩以外にわたしの夢視のことが広がったら」
ぎっと睨みつける。
「わたしは部をやめます。それと、部長とも篠田先輩とも二度と口を利きません。卒業までじゃなく、一生!」
わたしから目を逸らした部長が、きゅっと唇を噛んだ。
「わたしの夢視のことがどこにどう漏れても、先輩や篠田先輩にはなんの被害もないでしょ? ひどい目にあうのは誰ですか?」
「あ……」
ここまで直に言わないとわからないってことは、部長は今いっぱいいっぱいなんだよね。それはわかる。理解できる。でもいくらしんどいからって、わたしを無神経に巻き込まないでほしい。
あのね、わたしの夢視は商売じゃないの。あくまでも好意で引き受けていること。ボランティアなの。夢視に過大な期待をされても応えられないし、夢の解釈をわたしに下ろされても対応できない。その手のアプローチは絶対に受け入れない。
わたしを怒らせただけじゃなく、ひどく傷付けたことにやっと気付いたんだろう。しょげきった部長が小声で謝った。
「ごめんね……やっぱり。やっぱり、いい。忘れる」
「いいんですか?」
部長が黙りこくった。二度目の「いい」は、返ってこなかったんだんだ。ふうっ……しょうがないなあ。
時計を見る。五時を回っちゃったから、時間がない。養護の宇野先生が職員会議から戻ってきたら、ここでは夢視ができなくなる。部長の体調がいいならわたしんちに来てって言えるけど、ぶっ倒れてる今日は絶対に無理だ。
それに、さっきまで見ていたはずの鮮明な夢が覚醒と同時に思い出せなくなったっていう場合は、夢の劣化速度がとても早いんだ。どんどん薄れていく夢を、今夜見る夢でさらに上書きされるとわけがわからなくなる。無理に思い出そうとするほど見えたものの解釈をこじつけて、混じり物がどんどん増えちゃうんだ。そんな風に純度が下がってしまった夢は、夢視をするのが極端に難しい。明日改めて夢視するっていうのは多分できない……ってか、する意味がないと思う。
大急ぎで、ここでやるしかない。
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