おわりに



どうしてこんなことに……。

おっぱいぼよよーんの白いドレスを身につけた俺、18歳。


鏡の前に立っているのは、ラノベの表紙の女の子のようだった。


いやいや、こういう本好きだったよ?

だけど、俺自身がそうなるというのは問題外だ。


家族にも勧められ、シュスールに住むようになってから2年が経った。

女という性別の自分にも慣れてきているが、これ、やっぱりどうなのかと思う。


「いやあ。さすが、私の見立ての通りですね。ダイケン様にお勧めしてよかったです」


ネギーラがちょっとイヤらしい目でおっぱいをガチ見していたので、手で胸を隠してしまった。すると舌打ちされ、本当にこいつはやばいと思う。


「ハルヨシ入るぞ」


 ノックがされ、すっかり成長して大人になったダイケンがやってきた。


「すごく、似合ってる」


 タキシードを着たダイケンは人型だ。

 結婚式をあげる時は狼の顔に戻るらしいが、人型に慣れるようになってから、俺の前では大概人型だ。

 黒髪に銀色の瞳、アジアとヨーロッパのハーフみたいなエキゾチックな顔の奴は、自分が人型ではカッコイイ部類に入ることをわかっている。

 だから、こうして俺の前では人型になっているとしか思えず、悔しい。


「なんかいい香りもする」


 しかも声変わりした奴の声は、艶のある低い声で、耳元で囁かれるとドキドキする。

 

「嗅ぐなよ。っていうか嗅ぎたいなら狼型でやってくれ」

「なんで?」


 薄笑いを浮かべ奴が問う。


「なんでもいいから!ああ、式はあげてもいいと言ったけど、なににもすんなよ!絶対に許さないからな!」

「どういう意味だ?俺まだ12歳だからわかんないんだけど」

「何が12歳だ!そんな大人顔でいわれても全然信用ならねぇ!」

「ハルヨシが何を期待しているのか、俺はわからないぞ」

「くうう。期待してない。いいか、これは白い結婚だからな!」

「白い?どういう意味だ?」

「ああ、だから、一緒の部屋に住むだけだからな。それだけだからな」


  具体的なことを言いたくなくて(絶対知っていると思うけど)、俺はそれだけは譲れないといい続けて、この日、結婚式を迎えることになった。


  家族といらないけどエッセルも来てくれて、狼族の当主ダイケンと元人間今樹族の俺の式は執り行われた。

  狼族の前なので、ダイケンは狼型だ。

  それでも、背の高さは変わらなくて、俺は隣の奴を見上げる。

 

 「我、ダイケン・シュスールは、このクロダハルヨシの夫として、このシュスールで末永く彼女に愛を捧げる事を誓う」


  みんなの前で宣言して、奴は俺の肩を抱く。

  次は俺の番で、胸が痛いほどに早鐘を打ち、声が震えそうになる。


「大丈夫だ」


 そっと耳打ちされ、不覚にも俺はその声に安心してしまう。

 これはあくまでも生き返らせくれてお礼としてだ。恋愛結婚ではない、それなのに、奴の声を聞くと安堵してしまう自分が嫌になる。

 

 狼族の目と家族の目が俺を見守っている。


 ――俺は奴と結婚する。それは俺のお礼だ。あくまでも。


「我、クロダハルヨシは、ダイケン・シュスールの妻として、このシュスールで末永く彼に愛を捧げることを誓う」


 愛なんて、一生使うことないと思っていたのに、意外にも俺は素直に言葉にしていた。


 そうしてお互いの宣言の後、歓声があがり、俺とダイケンは正式に夫婦になった。


 それから、三年後、日本では一年後。

 俺は不覚にも第一子を孕む事になった。


 姉ちゃんには、それって犯罪と詰られ、俺自身、自分の心の弱さに泣きたくなった。

 だけど、日々大きくなっていくお腹、嬉しそうに腹をなでるダイケンを見ていると、まあ、よかったかな。


 異世界転生した上に、女になってしまい、召使から婚約者、そして妻になってしまった俺は、王道ともいえる異類婚姻譚を成し遂げてしまった。

 この後はモフモフを育てるコースかなと思いつつ、俺は今日ものんびりと妊婦生活を送っている。


 生まれた子がモフモフどころか、ネギーラ仕込の腹黒っぷりと発揮して、シュスールを超えて、世界を支配しまうことになる話は、次の主人公が語ることになるだろう。


(おしまい)


 


 


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異世界転生で飼い犬(本当は狼)の召使(女)にされた上、異類婚姻だと?断固抵抗する! ありま氷炎 @arimahien

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