俺の意志はどこに?
「目覚めたか?」
次に目を開け、最初に視界に飛び込んできたのは狼顔だった。
一瞬狼狽するが、それがダイケンだと気づいて、ほっとした。
いや、ほっととかなんだか嫌だけど。
「俺、まだ生きてるのか?」
「ああ。本当に。ネギーラが毒薬を入れ替えていてよかった。もし、本物だったら、お前は死んでいた」
「入れ替える?ネギーラもお前も知っていたのか?」
「いや。俺が知ったのはお前が倒れてからだ。ネギーラの奴、俺に相談もせずすすめやがって。俺が服用すると思って狼族用の睡眠薬と入れ替えたということだ。だからお前には効きすぎて3日も昏睡することになってしまった」
「3日?!姉ちゃんは、母さんと父さんは!?」
「無事だ。エッセルがちゃんと見ているから」
「エッセル?!あいつは悪いやつじゃないのか?」
「ああ、あれはスパイだ。どうも、遊び心が過ぎたらしいな」
そこで咳払いが聞こえ、その場にネギーラもいることに気がついた。
「ハルヨシの行動は本当に読ませんね」
「お前の行動もだ。次からは事前に説明しろ」
「申し訳ありません。まさか、ハルヨシが飲むとは予想外だったので」
「確かに。まさかお前が俺の代わりに飲むとはな。あの時もだけど、まさかお前が俺を助けるとは思わなかったし」
ネギーラは細い目を、ダイケンは銀色の瞳を俺に向け、なんだか居た堪れなくなる。
――俺はダイケンに死んでほしくなった。あの時も、俺は反射的に奴をかばった。まさか普段嫌っている犬を助けるなんてな。っていうか俺は……本当は嫌っていなかったんだな。ただシロが家族に忘れられていく気がしてさびしかっただけなんだ。
「でもこれで私は確信しました。ハルヨシ。あなたは今ダイケン様のことを好きですよね?」
「はあ?」
――唐突だな。まったく。なわけないだろう。まあ、嫌いじゃないのは確かだけど。
「な、なんて事を聞くんだ?本人前だぞ」
――なんでそこでダイケンが照れるんだよ!
ダイケンが少し大人びた狼顔から、動揺して子犬みたいになっていた。
「ほら、やっぱり。これで二年後は結婚ですね」
「は?どうしてそうなる。だいたい俺は日本に帰るんだから」
「ハルヨシ。帰ってこなくても大丈夫よ」
「え?はあ?姉ちゃん!」
突然姉の声が割りこんできて、そちらに目をやると家族+エッセルがいた。
「あんたのおかげで私も異世界転移できたわ」
「そうね。私もこの年で異世界転移できるとは思わなかった」
「おっさんが異世界に行くって話が書けそうだな」
まったく緊張感のない家族たちは、それぞれ感慨深けに言いたいことを言う。
いや、 なんで、普通に馴染んでるんだよ!
この状況おかしいだろう!
「まって、説明してくれ。頭がおかしくなりそう!」
すっかり場に馴染んでいる家族の存在に、俺は根を上げてしまって、それを救ってくれたのはダイケンだ。
「お前が倒れてから、エッセルに連絡して黒田家の人たちを連れてきてもらったんだ。その方が安全だからな。エッセル自身、もうスパイの役目を終わっていたし」
――えっとじゃあ、なんだ。
家族はもう3日もここにいるのか?あ、でも日本だと1日か。
「3日で、みんなすっかり慣れてよかったぞ。日本で拾ってくれたお礼もしたかったしちょうどよかった」
「クロちがった。ダイケンにすっかり大事にされて、本当よかったわね。ハルちゃん」
「そうだな。ダイケンのお嫁さんになるなら、父さんも反対しないからな」
母さんも、父さんもすっかりダイケンに信頼を寄せてるらしく、うんうんと頷いていた。
「え、なんで?俺はそんなこと思っていないから!」
必死に抗議しても今度は、エッセルの側にいた姉ちゃんが俺を裏切る。
「ハルヨシ。だめよ。日本に帰ってきてもろくな男いないわよ。そんな馬鹿でかい胸じゃ、体狙いの男に目をつけられるだけだし。その点、ダイケンなら大丈夫」
「大丈夫って、何が大丈夫なんだよ!」
「これで家族の了承も得ましたね。晴れて、婚約者です」
「ネギーラ、そこでまとめるんじゃない!」
俺のあの胸の痛みはなんだったのか。
カンペイ一味もすっかり捕らえられ、問題は解決。
翌日俺を残して、家族は日本に帰ってしまった。
しかもエッセルも一緒に。
「俺は?え?なんで?」
エッセルがいるから行き来がいつでもできるとかで、家族の誰も俺のことを惜しんでくれなかった。
そうして、俺はまた婚約者修行を続けている。
前より女言葉に抵抗がなくなったり、ドレスをちょっと可愛いとか思い始めたり、俺の心境の変化には驚くばかりだ。
だけど、おっぱいを強調するドレスだけは、今後も断固拒否したい。
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