第2話

 そんな生活が3ヶ月も続いた時、身体に異変が起きた。


 なんだか、何を食べても美味しく感じない。


 いつものサンドイッチが味気ない。


 お昼もパソコンを打ちながら食べられるモノがいい。


 時には、手軽に取れるカロリーバーって事も珍しくなかった。



 それから、しばらく経ったお昼休み。


「お前。昼休憩入ったか?」


「今からです」


 カロリーバーを見せて、笑ってみた。


 疲れた笑顔じゃ“花が咲くように”とは行かなかったけれど。


「バカ。そんなの飯じゃねーよ。社食、行くぞ 」


 課長の“バカ”には愛がある。


 大人しく課長に付いて行った。


 しばらくぶりの社食。


 たまには、フワトロ卵の親子丼でも食べよう。


 あれ?


「あのっ。この親子丼、苦くないですか? 」


「はぁ? 普通だけど。…… お前、痩せたろ?最近、働き過ぎじゃないのか? 病院行け 」


 今度は、何を食べても、にがく感じる。


 美味しくないどころの話じゃない。


 もう、食べるのが苦痛だ。


 私、どうしちゃったんだろ。


 ポロリと涙が落ちた。


「っ。でも、仕事が…… 」


「バカか! 仕事は替わってやれるが、お前の替わりはいないんだぞ! 病院行ってこい。命令だ 」


 いつもは優しい口調の課長が、いきなり怒鳴った。


「……はい。すいません 」


 驚きと、有難さと、情けなさで、嗚咽を我慢できない。


「バカ。泣くな。オレが泣かしてるみたいだろ 」


 課長から、受け取ったハンカチはすっかり色が変わってしまったのだった。



 確かに、何となく痩せたし。


 週末、寝ても、寝ても、疲れが取れない。


 階段の上り下りがつらい。


 忙しさを理由に気が付かないフリをしていた。



 そぼふる小雨の中、疲れた身体を引きずって、病院へ行った。


 なんだか分からないが、沢山血を取られ、沢山検査した。


 診察に呼ばれ、診察室へ。


「栄養失調です。味の違和感は亜鉛不足」


「は?亜鉛?」


「はい。お米、食べてます?」


「忙しくて、バーとか、パン系が多いですね」


「やっぱり。お米食べましょう。亜鉛不足により、何を食べても、苦くかんじるのです」


「お米、ですか」

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