第52話ゾロ目企画第1弾作品【イケメンに生まれた僕の秘密と運命の恋】

 イケメンに生まれた悲劇とは何だろう?


 僕は18歳の大学生だ。

 関西でもそこそこ有名な私立大学に通っている。



 自分で言うのはおこがましいが、誰が見てもイケメンだと言うだろう。


 小学生の頃から人気者だった、運動も出来るし、成績も良い、そしてこの顔だからモテる。

 多少、男子には反感を持っていた人もいるだろうが、それを跳ね返す事も出来る明るさ故に人気者でいられた。


 もちろんバレンタインデーにはたくさんのチョコをもらう。

 お返しは大変だったが、母親は喜んでホワイトデーの為の買い物にも付き合ってくれたし、そのためのお金も出してくれた。



 告られた数は数知れずである。



 だがしかし


 とても大変なことが未来に待ち構えている。

 その重大な秘密とは……

 父親もじいちゃんも親戚も

 揃いも揃ってているのだ……みごとに1人残らず!


 ということは??

 未来が確約されているという事なのだ。



 最初に僕が疑いを持ったのは小学校高学年のことだった。

 親戚のお葬式の真っ最中に僕は思った。

 子どもだったので一番後ろの席にすわるのだけど、愕然とした。

 この世が終わるかと思うくらいに気分が沈んだ。


 我が親戚の男性陣は1人残らずているのである。

 もちろん若い人はまだ予備軍なのか誤魔化しているが、40歳過ぎれば立派なハゲ頭である。


 全世界の人に聞いてもきっとこう言うだろう。

『ハゲの中のハゲだね』


 18歳の頃の僕は焦っていた。

 彼女なんて出来たことがないし、悩みを抱えたまま恋愛に突入することが怖いのだ。


 告白の時に『いつかハゲるけど僕と付き合ってください』なんて言えるはずもない、しかし……イヤ?果たしてハゲはそんなに忌み嫌われる存在なのだろうか?


 そうとも限らない?

 良い芝居をする俳優だって多いのだから、だけどイケメンでハゲてるというミスマッチが約束されている僕は悩むのだ。


『嫌だ!あの人残念だわ、ハゲてさえなかったら超絶イケメンなのに』と同情を買うであろう。


 堂々とイケメンでありたい。

 ありとあらゆる育毛剤も試している(現在も)



 そんな心がグルグルと渦を巻くこの僕が20歳の頃に彼女は現れた。

 アルバイト先の居酒屋に新しく入って来た1つ歳下の短大生だった。


「いらっしゃいませ」

「3名さまご来店です」

「喜んで!」

 ハキハキとした言葉でこなす彼女の名前は「前頭紗英まえがしらさえ

 本人はその名前(苗字)が嫌いだと言っていた、ほのかに感じた恋心は彼女の短大卒業と共に消えて行くしかなかったのだ。



 *****

 アラサーになった僕は一応有名企業に勤めるサラリーマンとなった。

 さすがにこの歳になると恋人の1人や2人はいた。

 大きな秘密ハゲ散らかす未来は明かさないまま僕は恋をして、いつしか恋に敗れた。


 急ぐべきなのだろうが、婚活はまったくやっていない。ムダな抵抗かもしれないが育毛だけは続けている。


 そんなある日に彼女と再会した。


 久しぶりに会ったのも運命の場所『熊ごろう』学生時代にバイトをしていた。古くからある居酒屋だった。

 あの頃は挨拶程度の数回しか話しかけたことはないのだが、僕も大人になっていた。

「前頭さんだよね、久しぶり」と声を掛けてしまった。

 首を傾げながら僕の顔を見ていた彼女に居酒屋のオーナーである、まさに熊のような大将が声を掛けた。

「さえちゃん!そのいけ好かないイケメンは幕下だよ!幕下!バイトを同じ時期にしていただろう!」

 その言葉に顔を綻ばせた彼女はあの頃と同じような笑顔で僕の顔を見た「お久しぶりです!お元気でしたか?」


 その時、僕はもう一度恋に落ちた。


 友達と来ていた彼女は僕に軽く会釈をして1度席を離れたが、スグにやって来て「良かったら一緒に飲みませんか?」と声を掛けてくれた。


 彼女は同僚と2人でこの店に来ていた、時々は懐かしい初めてのバイト先であるこの店を訪れるのだと笑った。

 僕も数ヶ月に1回はこのお世話になった店に顔を出していた。

 貧乏学生だった僕はこの店の賄いで何とかお腹は満たされていたし学費の足しになる報酬も得ていた。

 そして今も僕の心の中では実家に近い存在だった。


 久しぶりの再会は楽しかった、あの頃来ていたお客さんの話や美味しかった賄いの話で盛り上がった。

 お互いに連絡先を交換してその日は別れたが、僕は次の日には彼女のLINEにメッセージを入れた。

「楽しかったですね、また会いたいです」

 自分でも不思議なくらいに積極的になれたことにびっくりした。


 既読は直ぐに入り「はい!私も楽しかったです、今度また会いましょう」とメッセージと可愛いスタンプも付けてくれた。


 僕はイケメンなのは自分でもわかっている、でも中身は自分に自信が無いしがないサラリーマンだ、しかもことが約束されているのだ、この事を告白したら彼女は去って行くかもしれない、最も付き合ってもいないのだ……でも、その日から僕は毎日のように彼女と連絡を取り合った。

 直ぐに返事をくれるというのは多少なりとも好意は持ってくれてるのだろう。


 思い切って送った「今度、映画にでも行きませんか? その後にまた『熊ごろう』にでもどうですか? 」


 いつも直ぐに返事をくれるのに既読が入ったままのメッセージにその日は返信は来なかった。


 すっかり落ち込んだ僕だったが、次の日の朝に彼女からの「喜んで!」のメッセージに有頂天になった。


 次の日曜日に会う約束をした、思い切って告白しよう。


 こんな僕でも良ければ付き合ってくれませんか?そう言うんだ。


 確定の僕『幕下 祥太郎』の運命の恋は始まった。


〖了〗



 ◆あとがき◆

 この作品は短編集の中の作品のスピンオフ作品となります。そちらも読んで下さると幸いです。

(あざといやり方ww)


【青空には短いお話が良く似合う~そよ風が連れて来た物語たち】

 🐱47話『吾輩は猫であるという小説があるらしい』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891770040/episodes/1177354054893801933

 もちろん既に読んでる方は読まなくて良いですよ。


 2人の恋の行方はどうなるのか?

 それはハッピーエンドでしかないと思います。

 そうでなければお互いのネガティブな思いは消えることがないままですからね。


 一緒に祈ってください!

 頑張れと声を掛けて下さい。

 前頭まえがしら 紗英さえちゃんと、幕下まくした 祥太郎しょうたろう君に……


 そして、世界中の未来を持っているあなたに……


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