第51話【教師】

 取り返しのつかないことをやってしまった時の絶望感。


 まさにそんな風に感じたのだ。


 今年担任を受け持ったのは3年生のあるクラス


 素直で優しい子どもたちだと思っていたのにイジメがあったことに気がついた。


 そんな時には被害者にも加害者にも寄り添う気持ちが大切なのだと先輩教師から聞いていたのに、その日のホームルームで僕は声を荒らげた。

「上靴を隠したのは誰だ!そんな卑怯な真似をした子は絶対に許さない」


 下を向いている子どもたちにの中は涙を浮かべている子もいた。


 思い起こせば僕にもそんな苦い過去があった、小学4年の頃イジメにあった、関東地方から引っ越して来たばかりの僕は生意気に見えたのだろうけど、クラスの男子から無視され続けた。

 それに気がついた女子の中には男子に意見をする人もいたのだけど、それが気に入らなかったのか、イジメはエスカレートしていった。

 体操服や上靴は何度も隠されたし机の上にひどい言葉を書かれたこともあった。


 それなのにこうして教師を選んだのには理由があった。


 少しでもイジメの芽を摘みたい。


 あの頃イジメをしていた主犯格の男の子が家で育児放棄で苦しんでいたことはまったく知らなかった。

 ごく普通の家庭で、それなりに愛情を受けて育っていた僕には信じられないことだった。

 明かりのついていない部屋に帰ることも、ほとんどが給食でしか温かい食事が取れなかったことも。

 僕には信じられないことだった。


 その子が施設に入ることになり転校をする時に僕はその子から涙ながらに謝られた。

 きっと苦しかったのだろうと思うけど「元気でね」としか声を掛ける事が出来なかった。


「許す」とは言えなかったことに大人になってから悔やんだ。


 僕はやっぱりイジメを許すことは出来ない。

 それはきっとこの先だって変わらない、僕は子どもたちに謝った。


「イジメはいちばん悪いことだけど、先生が気づいてやれなかった事がそれよりもっと悪い、ごめんなさい!!!」


 犯人探しは簡単なのかもしれないけれど、僕はそれをあえてしなかった。


 子どもたちに何かをおしえるのは

 難しい、僕だってまだまだ未熟なんだ。


 いっしょに学んでいこうと思う。


 イジメの芽が小さなうちに……

 僕が苦しんだことを正直に話そう、そしてあの時のクラスメートを許してあげよう。

 幸せに暮らしていることを祈ろう。



 ━━━━━━━━━おしまい━━━


 ※「イジメはダメ!!絶対!!」

 そんな悲しい連鎖を止めることは難しいと思いますが、苦しむ子どもたちが少しでも減るといいですね。

 ニュースにはイジメによる自殺で幼い子どもたちの命が絶たれていることが毎日のように報道されています。

 そんな世界に絶望しますが、懸命に教師を全うしている人もいます。

 その方たちに捧げたいです。




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