通信

 ちょっとした事件で、其れは例えば隕石の落下だとか、電線の破損、国際通信機構の破壊で、僕達は通信の手段を失う。通信に頼り切った人類は、あらゆる業務をネットで行うようになった。ネットは、人間を退化させた。ネットを危険視する、時代遅れの老人は、もし仮にネットが事故で使えなくなったらと、臆病に将来を憂慮した。

 歳を取るほど、臆病になる者だ、そして保険を掛けようとするものである。力の無くなった老い耄れは、保険を掛ける事位しかできないのである。

 世界中の、病院を医療施設を襲撃し爆破した。世界中に医療の限界を知らしめて、健康の安全が保障され、病気や怪我をしても、治療される医療制度をブチ壊しにして、安全すぎるこの平和な世界に、恐怖と、危険がある事を知らしめた。

 平和なんて一瞬で消えて無くなる。世界中のホスピタルは消えて無くなる。医療制度は廃止され、国中の人間が感染症に掛かり、死んでいく。死ねばいい。滅んでしまえばいい。

 病院は、破壊する。医療の職は必要ない。金の無駄なんだ。

 この世界の医療は無駄が多すぎる。

 医療従事者だけが殺されず重宝されるといった風潮は、一体何なんだ。命を助ける事がそんなに美徳か、僕はそうは思わない。医療なんて、あろうがなかろうが大して変わらない。感染症の予防さえできれば十分だ、後は不要なんだ。新しい治療法を発明する人でも無いのに、やたらと医療に従事するバカがおおい。

 そもそも、危機意識が足りないから、ダメなんだ。

 死んでしまえ。医学は偉くても、病院は全く偉くない、診療は役に立たない、看護は無駄だ。

 あの、専門の施設、機器に価値があるのであって、その従事者に価値はない。医療何て孰れは無くなる仕事だ。役に立たない医療従事者は忙しそうに、患者を受け付け、医者を補助するが、無駄なのだ。そんな労働は幾らだって変わりがいるじゃないか。機械にやらせればいいいんだ。

 無駄な労働だ。それに、そんなに多くの患者が気軽に病院にいけるというのもクソだ。病院なんて、大怪我か、恐ろしい熱、のある時だけで十分だ。

 癌になったらもう終わりなんだ。それから、不治の病に罹ったら、もう絶望である。医学はそうした例の少ない病や、癌の研究にこそ意味を成すのだ。究極医学の目的は、そうした病の治療法の開発である。どうして、不治の病を治らないのか。癌のメカニズムとは、先天的または後天的に異常を持った人間を、如何すれば、良いのか。狂人に人権などない、実験に利用する迄のことだ。

 医学は、不可能を可能にする。狂人は、狂人の儘にしておくのか、はたまた正常とは何なのか。異常な人間はいい実験材料だ。解剖して、顕微鏡で観察する。新たな発見がないものかなあ。

 病に罹った人間を使う。倫理こそ医学の敵だ。実験によって得た結果が、将来どれだけの人間を救う事か。倫理を無視した実験は医学の発展に不可欠なのだ。

 

 医療 御心は、そういって、医療従事者を、カウンセラーを糾弾した。この必要のない仕事だ。精神カウンセラーも看護師も、無駄なんだ。役に立たない無駄な医学。

 

 こんなものは医学ではない。即刻殺すべきだ。僕を精神異常者だというのならば、お前らは僕の敵だ。医学の敵だ。役に立たない幸福追求に呪われた国民が国の催眠術に掛けられた人形なんだ。倫理なんて知ったことか。異常者は実験に使う。役立たずクズは要らない。不治の病は、貴重な実験のサンプルだ。意志など尊重しない、使える人間は、使う迄だ。材料なんだ。人間は、実験の材料。

 

 この世界から、介護士も看護師も、心理カウンセラーも消えた。医療事務も、理学士も消えた。意味のない者は消えていくのだ。薬剤師と医者は残った。そして新たに医薬師という職ができた。医薬師は医者の知識も薬剤師の知識も持っている。外科、内科。あらゆる専門を全て理解し、新たな医学の発展に貢献した、医療 御心と、その師匠に当たる糸波 信。


 その数々の伝説は語り継がれている。余命三か月の人間を治療した。癌を抑止する薬を製薬した。不治の感染症の治療薬を開発した。奇跡のオペで一命を取り止めさせた。世界は彼等を称賛し、祝福した。

 

 私はこの能力、セルマインドで細胞の様子が分かるのだ、セルマインドは細胞に語り掛け、活性化させたり、治療に役だてる事が出来る能力だ。これにより数々の新薬の開発や、細胞が苦しみ癌細胞に変異する時、の音や、動きを事細かに観察しその原因を突き止め、テロメアとの関連性、若返りのメカニズムを解き明かした。その功績から、アナスタ財団の主催する、アナスタ科学賞の医学賞と、平和賞、物理学賞、科学賞の全てを受賞したが、全てを辞退し、

 

 「私は名誉のためにこの研究をしているのではない。好奇心ゆえの愚かさゆえだ。愚かに人の限界を超えようとしたに過ぎない。人を助けようとしたわけでも、ない。」


 といって。決して自身の研究を公に公表する事はなかった。


 「ちっ。いかれた医者だぜ。」

 

 あの、みっちゃんはよお。細胞の声がきこえるだあ。幼い頃はそんな奴いるわけねえとバカにしたものだが、あいつが、医学賞を取って、大発見をしたときはもう驚いた。


 「まさか、彼奴。細胞と意思疎通ができるっていうのは本当だったのか。」


 私は、糸波 信は、オペの天才だった。そして、薬剤の配合、薬品製造の天才だったが、御心のような特殊な才能はなかった。信は、御心の治療術をいち早く吸収し自分のものにした。細胞の声が聞こえない信は、目で知識で、自分を頼りに多くの医学的業績を残した。


 御心の最期の日がきた。御心は、未知の細胞変異により死んだ。誰も見たことのない新種の病だった。癌の様で癌でない、生命の進化の様に思えた変死体であった。


 私はその死体を解剖している内に、骨格や、細胞の配列が人間のそれとは明らかに異なる事に気が付いた。そして、其れが宇宙人のものであると直感したのである。


 それから、研究を重ねていると、彼の脳細胞に情報が入っているのに気付いた。命令式のような暗号で解読が難しかったが、知り合いの天才数学者 数色 真に解読をしてもらった結果、其処には驚きの記述があった

 

 使命を果たせ我が同胞よ。

 我が創りし、人形よ。紅葉柱のその創作物よ。

 お前は、地球で、人間なりなさい。そして来る時、二千三十一年までに役割を果たすのです。人間界に革新を起こしなさい。これは、天上と私で創った生命の規約。私は彼に生命の玉をその仕組みを渡した、その玉は、天上の善悪の心を獲得し、種々の人間としての機構を備えた。

 お前には、生命の声が聞えるでしょう。其れは、決戦の時、人間の滅亡を阻止するための薬の開発、医療技術の革新の為なのです。


 紅葉柱 翔去

 

 これは、一体。何の手紙だ。


 「暗号だ。」


 数色 真はいった。

 

 「これは、新発見だ。この情報が真実だとすると、この世界の神か。何者かに使命を受けて作られた存在が医療 御心で、彼は人間でない、紅葉柱の家系ということになる。予言とは一体なんの事なんだ。」


 其れからだ。私が古代の遺跡を研究しはじめ、笹見原 ミクルに出会ったのは。彼女は旧姓を、耳ヶ里といい、三千年前の古代に宇宙舟に乗り、宇宙の始まりの樹、世界樹の木の実を食べ、地球へ帰還した、笹見原 海渡と、耳ヶ里 峰子の末裔らしい。

 

 彼等、彼女達が、帰還した時、既に地球上に魔力を持った人間は消えており。宇宙から、そうした非科学的なものは消え去っていた。その後、五人の宇宙探検団は、組織を設立し、魔術結社、アンノーンを設立し、世界中にその痕跡を残している。


 「アンノーンの組織のリーダは闇夜 月日、 闇夜 幻夜の名を継いだ人間だ。闇夜の記憶と能力を継いでいる。 」

 

 「闇夜一族は格が違う、あの一族は、生命の実を食べた。そして、その力を増幅させ、他の組員にも分け与えた。もともと、魔力値が段違いだった、闇夜 幻夜は死ぬ時、その力を見知らぬ少年に分け与えた。その少年は、引力のある少年で数千年に一度の存在だったらしい。」

 

 「それが、闇夜 月日ということか。」

 

 「そうだ。」


 「四番人。その存在は知っているか?」 

 

 「遺跡の碑文には必ず出てくるワードだ。知っている。」

 

 「その、一人である紅葉柱 翔去が創った傑作の人間が、私の同期の医者、天才内科医の紅葉柱 御心だったんだ。」

 

 「まさか。証拠は?」

 

 これだ。と真は、その手紙を見せた。


 「ほう。まさかねえ。あの四番人の一角の中でも滅多に姿を現さない彼が、こんな事を人間の為にしてくれていたとは知らなかった。」 

 

 「天上 与一は僕の夫だよ。」

 

 「その、子供が天上 一 この世界を終わらせるものだ。予言どうり僕の子供は世界征服を目指して暴れまわっている。けれど、此れはもう何度目だろう。」 

 

 「失敗の未来だよ。天上 一はもう九千回をやり尚している。」

 

 「けれど、君に出会うルートは初めてだ。糸波君だったね。君は偶然僕にあって、その状況を打破できるヒントを届けに来てくれたわけだ、意図はなかっただろうが、偶然にも、紅葉柱の尻尾がつかめた。其の手紙にきっとヒントがある。」 

 

 暗号。のようなものだ。きっとその文章に出てくる人形は他にもいる、生命の遠隔操作を得意とする紅葉柱君のすることだ、抜かりはないだろう。とミクルは早速、御心の遺体から、データを読みっとった。

 

 「此処か。見つけたぞ。ん?天上 鬼黄泉?誰だ。天上  与一のっ子供は、一だけだ。此れは、一体。まさか!!。」

 

 間違いない。此れは。未来だ。与一と私の間にもう一人、子が生まれる。其れが鬼黄泉。その魂に、あの紅葉柱の魔力が混じっている。実験だ。此れは、完全なる実験。四番人の実験だ。

 

 「これから、君には助手になってもらうよ。最終決戦までに、君の医学を更に向上させないとねえ。僕は、組織と国を興して、軍隊を創る。」

 

 それから、百年後。計画どうり、二人の子を産んだミクルは、その魔力を失い。闇夜 幻夜の末裔の怜の元を訪ね、力を奪った。

 

 強引に。怜の魂と融合し、怜は私を呪った。怜の魂と融合する事で、ミクルの魔力は、増大し、其の箱は進化した。

 

 「これが、闇夜の力か。」

 

 ミクルは、思わず驚嘆し、叫んだ。

 

 これは、凄まじい。勝てるぞ。この力成らば、最後の決戦でも十分な戦力になる。あとは、一の能力を引き出すだけだ。悪魔憑きの中でも極めて稀有な影使い、闇の能力を持つ一の能力の開花其れが、決戦での命運を握る。


 医者殺しに襲われて死ね。医療はクソだ。邪魔なものだ。そしてこの社会の大半の仕事は無価値でいて無意味なものだ。くそみたいな仕事でも生き残れてしまう甘い社会だ。

 

 奴隷にされることもなく、奴隷のような労働をさせられる。何とも、見るに堪えない社会だ。こんなのは、酷いとも思わない。役に立っている人間なんて人口の一パーセントにも満たないだろう。後は、労働者だ。

 

 人口が、増加してもいい事なんて殆どない。寧ろ多すぎるくらいだ。


 基本的に邪魔なんだ。不必要でいて役に立たない。


 戦争中に医学も、経済も隆盛するのは皮肉なものだ。怪我人がいればいるほど、医学の需要は増えるし、軍需製品を製造するのに、経済が動く。人間は。戦争なしに、此処までの文明を築けなかったにちがいない。戦争には頭を使う。 

 

 歓喜も憤怒も悲哀もくだらない。幸せも不幸せも。脳が物質を放出しているに過ぎない。脳が震えているに過ぎない。なんてくだらないのだろう。この感情は、脳の設定上そうなるように作られているに過ぎないのだ。


 無だ。無なのだ。感情については無なのだ。

 

 思考については、複雑なのだ。其処には、複雑な回路がある。脳内回路。其れさえも設計されたもの、思考は言語をつくりだす。


 偏桃体は、過去の出来事、記憶、感情から、人間の選択を決定する。


 決定する。その決定は思考か?思考は決定されているのか。其れは、客観だ。其れはきっと、客観で、かつ不自由だ。他人は、偏桃体による〇×で、その人間の心情を理解する。無だ。無でなければ人間は、その偏桃体を読んでくるのだ。


 怖ろしい。偏桃体が複数あれば、人間どもに思考による、決定が、見られる事はないのに。好き嫌いは、この偏桃体のせいなんだ。


 くだらない。好き嫌いの感情はくだらない。僕に従わない人間は敵だ。偏桃体は、拒絶する。

 

 嫌いの選択を拒絶する。憎い。死ね。


 これは、殺害。

 

 雨の中。ザザザーという雨の中。僕は、濡れていた、雨は止まない。

 

 血に染まった、地面には遺体が転がっている。

 

 遺体に雨が打ち付けている。激しく打たれる。雨の音が耳に残る。手にはナイフが握られている。

 

 空を見上げていた。雨の降る空を見上げていた。そして、吼えた。天に届くように、大声で吼えた。

 

 

 

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