惨め

 人間は惨めだ。僕は、かつて人間ではなかった。この世界の統治者になった兄の、左利 徹は、人間を崇拝した。彼自身は不死身だった。神に選ばれた四番人は不死身である。僕は、兄に作られた人間だ。兄の実験で作られた人間のロボット、機械、改造人間。不死身の身になりたかったが、兄は私を只の人間にした。人間観察の為だといって、僕を道具の様に使った。

 惨めだった。

 人間なんか糞以下だと分かった。兄は決して私を愛そうとしなかったし、情なんてものは兄には微塵もなかった。弱い人間の心は兄には決してわかるものではなかった。

 そして、僕はサラリーマンになった。苦痛だった。

 地獄のような労働に死にたくなった。兄は、そんな僕を観察して面白がっていた。

 「がんばれ。右。僕の弟。」

 といっていた。一体不死身の彼奴に何が解るのだろうか。 


 兄はよく、弱者にしかわからない事もあると言っていた。弱さをよく知る人間の強いことと言ったら神をも驚かせる。といった。人間の勇気は、素晴らしい。弱いからこそ考える。次に繋げる。人間の努力は素晴らしい。

 

 僕は、兄のことが嫌いだったが、どうして兄が人間に執着するのかは、よく分かっていた。兄は死なないからだ。だから、死の恐怖を抱えて生きる人間が面白いのだろう。人間以外にも生き物は存在するが兄は人間を特別に面白がった。


 人間は面白いんだ。学習するし。勤勉だし、勇気があるし、素晴らしい生き物だよ人間は、少なくとも、僕の創ったアイアン族には、こういった精神作用は無かった。僕は、反省してるんだ、僕の創った生命に心と魂を与えるための研究なんだ。と兄は言っていた。

 

 そして、僕は結婚して子供を残した。

 給料を稼いでそれを子供の為に使った。家の人間にのけ者にされながら、僕は必死に働いた。帰ってきても僕は家からのけ者扱いされた。男は家庭ではこうして厭にみられるらしい。

 

 僕は、家に帰るのも何か億劫で、パチンコ屋によった。そのあとキャバクラにいった。

 

 どうして、男はこんなにバカなんだろう。と思った。人間の習性は科学的に解き明かせるらしい、此れも狩猟採集時代から、男は狩りで女は家事、育児をする、そうした遺伝がDNAがあるらしい。果たしてこんなくだらない人間の何が面白いのだろう。と考えて居た。

 

 僕は、人間をやめたかった。


 家に帰ると、息子が眠っていた。

 

 殺したくなった。此奴の為に、働いてお金を稼いで、大変なんだぞ。

 

 息子は僕の仕事を馬鹿にした。そんな仕事誰にでも出来る仕事だ。サラリーマンなんて負け犬のやる事、かっこ悪い親と一丁前なことをいっていた。

 

 確かに、そうかもしれない、何かに成ろうと大した努力もせず、結婚して、子供を産んで、誰にでも出来る仕事に就いて、くだらない人間だと自分で自分をなじった。


 これも、全ては家族の為だ。パチンコとキャバクラは、行かないとやっていけないのだ。夢中に成れるものも無く。何も無かった私は、好きだった今の妻と結婚して子供を残して幸せな家庭を築いた、独身の寂しい奴よりもましだ、嫁は要るし、可愛い子供もいるんだ、働いているし、御金だっって或る程度はある、と自分のこれまでの生き方を正当化していました。

 

 しかし、本当に、自分は面白くない人間だな。大きな夢なく、平凡でくだらない人間だ。


 兄は、如何して僕を作ったのか、その答えさえ見つからなかった。 

 

 家族を作って、幸せだと思っていた。


 それなのに、息子は私のいう事を聞かなかった。私を馬鹿にした。悔しかった。息子に馬鹿にされて、確かに自分は何もないし、クズな人間ではあった。息子を殴った。

 

 息子は激高して、私を殴ってきた。

 

 喧嘩になった。私は、息子の力に驚いた。殴られて、血まみれにされた。息子は自分より喧嘩も強かった。若いころは勝てたかもしれないが、今の自分では手の付けようがなかった。

 

 それから、家では、息子の方が発言力をもつようになった。

 

 雑魚の父親と、バカにされた。


 我慢ならなかったが、こんな生き方しかしてこなかった私には、息子に逆らう事も出来なかった。


 強い息子は、私をコケに使うようになっていた。親を足の様に使い、家族とも思っていない様子だった。尊敬できない親といって、私たちを見下していた。御飯さえ一緒に食してはくれず、家族をきらい、見下した。


 「こんな、人間にはなりたくない。こんな、くそな仕事で満足して、上を目指さないこんな腑抜けた奴が親だなんて思われたくない、私は違う。お前らとは違う。」


 息子はそう言ったきり、家に帰って来なくなった。


 私は、息子を舐めていた。私の子なんかが、成功するはずないと、有名になれるはずはないと、しかし、彼は上手くいったらしく、有名になって、その噂は私の耳元にまで届いていた。


 深夜にバリバリと白や、コンビニ弁当を食べて居た。私は糖尿病か動脈梗塞で死ぬかもしれないない。其れでも、ぶくぶくと太るものを夜中に食べてしまうのだ。子供も、すっかり成人し家から出ていった。もう私に生きる希望は無い。


 メタボリックシンドロームの診断結果だった。私は死ぬのだろう。


 彼の娘の利腕 美香は、大学に進学してっきり、実家に全く帰って来ない。


 嫁は私をのけ者のように扱うし離婚の話も出た。


 誰も、私の味方はいない。家族。父も母も死んだ。兄が用意した僕の父と母も死んだのだ。愛してくれた、母も父も死んだ。葬式には、たくさんの人が来たが、息子と娘の姿はなかった。

 

 そして、遂に私も死ぬようだ、生活習慣病のつけが回ったのだろう。


 妻は私の最後のとき、遺産の為に葬式に出た。この時を待っていたとばかりに、家族が集まり、保険やら遺産を分配していた。

 

 「やっと、死んだわ。邪魔な。人間だったな。」


 「よかったわああ。死んでくれ張って。未だ、五十代なのに、でも其れがナイスやわああ。保険が降りてくるで、なあああ。」

 

 そして、一人の人間が死んで、その感情が心がデータとして集められ実験に使われた。

 

 しかし、つまらない人間が出来てしまったな。これは、失敗作だ。この人間は感動が少ないのか、愛情が足りなかったのか、うむうむ。実にくだらない人間が出来てしまったよ。次の人間制作は、もっと偉大な、努力家な、人間の中でも偉い人をつくれるプログラムを組まないとな。ナンバー007は失敗作だ。

 

 と、左利 徹は、言いました。 

 

 「博士、ナンバー7に異常が発生しました。高圧電流を脳に流したところ、異常な脳細胞の増殖が発生。」

 

 うむうむ。おもしろい。人間としては失敗作だが、実験動物としては、使い物になりそうだな。

 

 「おお。これは。初めて見る現象だ。脳細胞の異常増殖。」


 しかし、気持ちの悪い増殖だな。このスピードで増殖されると、実験室が脳で埋め尽くされてしまう、なんて効率の悪い進化なんだ。

 

 「もう、よい。殺せ。」

 

 バン!バン!

 

 すると、脳の増殖は止まり、脳の外側に固い殻が出来た。


 此奴、知性があるのか。

 

 「お前ら、殺す。」 

 

 危険だ。これは危険だ。 

 

 「総員戦闘準備につけ。ナンバー007が暴走、知性を確認」

 

 「撃て!」 

 

 指揮官の合図で一斉に射撃する。 

 

 脳は、全てはじき返し、攻撃に転じた。他人の脳を喰らって脳が巨大化していた。


 「なんて奴だ。面白い。此奴は、実験材料として素晴らしい。」 

 

 そういって。博士は。魔力を開放して、左手で空間を捻じ曲げ、脳を捕獲した。 

 

 「どうして、御前みたいなのがいるんだ。ずるいぞ。」

 

 「喋った。面白い。君は良い実験試料だ。モルモットだ。此奴を亜空間にとじ込めて置かないとなあ。」

 

 「やめてくれ。如何して。そんな、非人道的なことが出来る。」

 

 「実験だよ。これが成功すれば、君は、金属の体を持った人間に成れるんだ。」

 

 「金属の体。不死身に成れるのか。」 

 

 「さあねえ。神には程遠いが、君みたいな出来損ないにはぴったしさ。

」 


 「厭だ。神になるんだ。僕を作ったお前は犯罪者だ。如何して僕を作ったんだ、人間でも、アイアン族でもない半端の僕を。」

 

 「僕の創った生命には心が無いんだよ、其れを付け加えるには、この実験しか方法が無いんだ。」

 

 そういって、其の脳は、博士の創った亜空間に閉じ込められた。 

 

 餌だよ。といって博士は、人間の脳みそや脊椎神経を亜空間に放り投げた、僕はそれらを吸収する度に、其の人間の一生涯を追体験した。もう何人喰ったかわからない。

 

 そうして、千年程立ったある日、僕は、遂にアイアン人間となった。電気で動く人間となった。博士は素晴らしいと手を叩いた。 

 

 「これを、アイアン星に持ち帰ろう。新たな生命の誕生だ。」

 

 磁力と電力を操るアイアン星人の祖先は、ナンバー007、鉄塵 鉄悟郎。新たな生命として多くのアイアン星人を創った。

 

 完全に、私は自由だ。もう、あの実験から解放され遂に、アイアン人間となったのだ。 

 

 「あの糞博士をいつか、殺してやる、不老不死の木の実を食べて、神の使いのあの男を殺してやる。」

 

 そういって。鉄悟郎は、宇宙線を作って、宇宙を彷徨うのであった。 

 

 宇宙征服を行った。鉄悟郎はおかしいことに築いた。この世界にあの憎き神の使いはいないので或る。

 

 鉄悟郎は、生命の樹を探して、宇宙を飛び回ったが其れは何処にも見当たらなかった。鉄悟郎は、この世の物ではなくなっていた。いつの間にか世界が鉄悟郎の事を、異端児扱いするようになっていた。


 そうして、鉄悟郎は、地面の更に下のこの世界の最下層の、死の国に連行された。


 「僕をどこえ連れて行くんだ。」


 そこは、死の国、タルタロスであった。また地獄ともいった。黄泉ともいった。


 「お前も様に死にきれない、不死身はここで永遠の苦しみを味わってもらうのが習わしだ。」


 「何が。習わしだ。よ!僕が何をしたっていうんだ。」


 「君は、この世界の物ではない人工物だ。裁かれて当然だ。」


 そして、鉄悟郎は、種々の地獄を体験させられ、何度も死んだ。死の痛みを何度も体感させられた。終わらない死を無限に、其れはもう無間地獄であった。灼熱に焼かれ。極寒に凍らされ、針に刺され、爆弾に晒され、ナイフで刺され、麻酔なしで内臓を弄られ、穿られ、解剖され、料理され、其れでも死ねない、死の国の拷問レシピを三千年は、体験した。

 

 そのころには、人格は豹変し、罪を贖うようになっていた。 

 

 「ごめんなさい。生れてきたのがいけなかったんです。」

 

 お釈迦様も、この様子には酷く心を痛められ、冥府の神々も彼の変わり様に同情し彼を釈放した。 

 

 「強くなって。神を殺してやる。」 

 

 気づくと彼の体から魔力が滾っていた。地獄の試練で魔力が宿ったのだろう。 


 遂に魔人になったのである。黒の魔人、アブソルートに。


 釈迦を殺してやる。彼奴の地獄は行き過ぎだ。左利 徹の実験 の方がまだ優しかった。地獄を創った奴は化け物だ、あんな恐ろしいもの、悪を裁く釈迦がどれ程の悪か。


 そして、釈迦は菩提樹の下で、毒をのまされて死んだ。 

 

 「閻魔大魔王だ。」 

 

 そして、鉄悟郎は閻魔と呼ばれるようになった。地獄の支配人となったのだ。

 

 悪人は、罪を贖う必要はない。この様な非人道的な地獄は時代錯誤だ、この針も灼熱も極寒も、利用できる。もの温めるのに使えるし、冷やすのにも使える。この地獄はエネルギーの宝庫だ。発電するのに持ってこいなのだ。古臭い釈迦がいなくなって、地獄は、発電所兼刃物工場になった。


 私はそれで人儲けして、閻魔株式会社で上場した。


 閻魔は、悪か善かを決められるような偉い人間出はないし、歴代の閻魔は怖そうな悪魔のようなイメージを人間に与え恐怖で世界を支配した独裁者だ。慈悲も糞もない。説法なんて糞くらえ、念仏なんて大嫌いだ。


 閻魔 鉄悟郎は、仏教の世界を、改変した。これまでの、仏の世界を潰して、合理的な世界に作り替えた。法律を作り、説法を排除しお経を唱えるのを禁止し、修行をしても如来、菩薩どころか、明王、天にさえなれないといった。


 明王試験に合格した人間には、この釜と怪力を与える。手術で体を弄って明王の肉体にし、魔力を少し与える。


 天、菩薩、如来にしてもそうだ。寺は壊して焼き討ちにする。地獄にこそ、真の力がある。

 

 僧侶は、死ねばいい。この世界に僧侶は必要ない。首を刎ねて僧侶を弾圧せよ。 

 

 お経は焚書せよ。そして、世界中の寺が一斉に燃えてなくなり、袈裟を掛けるものは居なくなり。忘れられた。


 「天国なんて、くそくらえだ。極楽浄土は嫌いだね。」

 

 「善か悪かなんてわからないじゃないか。」 

 

 実に、くだらないことだ。

  

  こんなもの、は負の遺産だ。

 

 世界から、地蔵が居なくなり。僧侶は消えた。それらは、古の物語となり、仕事で僧侶をすることは出来なくなった。


 禁欲は素晴らしいことだ。人間という下賤な生きものは欲に晒される化け物だ。精神を集中させ、無の境地にたて。


 五蘊、五感の説を理解せよ。そして、第六感を感知せよ。思念を理解せよ。


 座禅をせよ。滝に打たれよ。


 そして、極めるのだ。 

 

 精神の動きを事細かに研究せよ。断食せよ。幸福になるな。ストイックになれ。

 

 般若波羅蜜。

 

 この世界の本質は無である。 

 

 決して、愚かになるな。

 

 

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