大人の事情ってやつ
「夢って、いつも肝心な場面で終わるものだな」
あのバトルは、俺の勝ちだったと確信している。
少女はダンスに夢中になり終始楽しそうに笑ってたし、時折師匠の姿ではなく魔族の少し気の弱そうな美しい少女の姿がチラついた。
それは噂に聞くような邪悪なモノではなく、運命に翻弄された幼気な少女にしか見えなかったが……
人族なら歳の頃は十二~十三歳前後の姿で、師匠とどこか似ていたが、紫の髪はストレートで、異世界にいたサキュバスたちと同じ小さなうねった角と背にコウモリの様な羽があった。
そして師匠よりずっと胸が大きく、タレ気味の大きな瞳は何処か愛らしい。
想像力の勝負がどんなものかイマイチ理解できないが、きっと圧勝だったに違いない。
俺はそんな夢を回想しながら布団の中であくびを噛み締め、伸ばした指先に当たる不思議な感覚に首を捻った。
「人間の胸のような?」
そんな気がする。
悪夢を見ると、オートで阿斬さんが俺の布団に潜り込む仕様になっているのだろうか? そんな邪悪な術式は稲荷で感知することはできなかったが、
「また優十さんが何かしたのかな」
今後彼のことを何と呼ぶべきかとか、寝室に忍び込む術をちゃんと聞いておいて、その対策を練らなくては……
とか、寝ぼけた頭で考えながら、確認の為もう少し揉んでみると、ムニムニとした弾力と吸い付くようなきめ細やかな素肌の感覚が伝わってきた。
耳元で艶っぽい吐息も聞こえてくる。
でもこれは阿斬さんの男らしい息遣いじゃないし、何か甘い匂いも漂っている。
覚悟を決めて布団をめくると、
「御屋形様、いきなりそのような」
頬を赤らめた千代さんが微笑みかけてきた。
何故か黒いレースのパンツ一枚の姿で。
「ち、千代さん、こ、こんなところで何してるの?」
「そ、それはその……」
ちょっと既視感のあるシチュエーションだが、一番肝心な人物が入れ替わっている。しかも俺の右手は千代さんの大きすぎる胸をわしづかみにしたままだ。
俺が動揺していると、
「夢が叶ったのでしょうか」
千代さんは俺が離そうとした手を両腕でホールドして、更にグイグイとその大きすぎる胸を押し付けてきた。
何故か黒いレースのパンツ一枚の姿で。
「そ、そんな、御屋形様、ご無体な。此処で止めるなんて」
そのボインボインすぎるわがままボディから目を逸らすように枕元に目をやると、キレイに畳まれたセーターとデニムのスカートがあり、その横には凶悪なサイズの黒いブラジャーが置いてある。
うん、これ絶対確信犯だな。
「千代さん、ちゃんと状況を説明して」
俺が強引に自分の手を差し引くと、
「そんな御屋形様、どうか続きを」
色っぽい視線で懇願されたが、隣の麻也ちゃんの部屋から物音が聞こえてくるので、
「とにかく急いで服を着て下さい」
俺は寝返りを打って、布団を頭から被ると……
ダンスよりも激しく飛び跳ねている自分の心臓を、何とか落ち着かせた。
× × × × ×
「叔母さん、どうしたの?」
パジャマ姿の麻也ちゃんが俺の部屋に突入する前に、千代さんは何とか服を着終えてくれた。
パジャマ姿の俺とセーターにデニムのロングスカートの千代さんが、布団の上で向かい合って座ってる姿は異様と言えば異様だ。しかも千代さんのピッタリとしたセーターの胸がやたらフニョフニョ動くのが気になるが、
「麻也、それが…… 今朝起きたら兄の姿がなくって、しかも御神体の刀も」
その言葉に麻也ちゃんは両手を口に当てた。
千代さん、そんな重要な話は早くしてほしかったが、
「それで慌てて、兄から聞いた秘密の経路を利用してここまで参りました。その…… 御屋形様が心地よくお休みになられていましたので、少々お待ちしましたが」
まあそれなら仕方ないか。
いや、しかし。待つ方法に問題があるような?
「パパが、あの刀を持って!」
麻也ちゃんがとても驚いたので、千代さんを叱るのは後回しにしよう。
しかし麻也ちゃんのパジャマの胸元も千代さんに負けずボインボインしていた。
ひょっとしたら、寝る時はしない派なのだろうか。
少しサイズの大きいブルーのパジャマは男物なのか、全体的にブカブカしてるが、その部分だけ妙にピッタリしている。
「それは、俺が作り直した刀のことなのか」
俺がそこから何とか視線を外して問いかけると、千代さんと麻也ちゃんが説明してくれた。どうやらあの御神体の刀には『神殺しの逸話』があるようで、
「復活した御神体は歪みを治める『神殺し』の力が宿ると」
稲荷を建立した当主が、そう言い残したそうだ。
まだ完全に麻也ちゃんのパパが記したノートを読破していなかったことが悔やまれたが、
「しかし元々そんな大層な術式は存在しなかったし、そこまでの能力は付加していない」
作り直した俺が言うのも何だが、そんな能力は無いはずだ。
「御屋形様の能力は桁が外れておりますから、一般的な常識は通用しないのでは……」
千代さんが胸元で腕を組んで、ボインとおっぱいを持ち上げながらすり寄ってきた。
「そ、そうよ…… あたしもあの刀を持った時、凄く不思議な感じがしたし」
すると麻也ちゃんも四つん這いになって、布団に両手をつきながら俺に詰め寄ってきた。
もうこれ、
ブカブカのパジャマの首回りから、両腕で寄せられた谷間が確りと観測できる。
麻也ちゃんの大きな胸でもゆとりのある首回りのせいか、肝心な部分まで見えちゃいそうになってるし、やっぱりブラジャーをしていない。
「そう言えば、千代さんたち妖狐族が持つと出力が上がるような術式はあったな。それはそのままにして、作り直したが……」
「きっとそれです! 御屋形様の脅威の能力が、我ら妖狐族の秘められた力を引き出すのかもしれません」
「どうしよう、パパはそんなものを持ってどうするつもりなんだろう」
これは、かなり危険な状態なのだろう。
――色々な意味で。
俺の右に座る千代さんもブルンブルンだし、左に寄ってきた麻也ちゃんまでブルンブルンだ。
「それならまず稲荷に行って調査するか。結界を強化しておいたから、何らかの足跡が見つかるかもしれない」
二人のブルンブルンから目を逸らして俺が腕を組むと、
「お願い、パパが何を考えてるか分かんないけど嫌な予感がするの」
麻也ちゃんが更に俺に向かってはい寄ってきた。
「パパを止めて」
「安心して、必ず何とかする」
麻也ちゃんの心配そうな瞳を見つめて微笑み返すと、
「ありがとう」
少しだけ笑顔が戻る。
しかし不意にその下の谷間に目が泳いでしまうと……
「もう、バカ」
麻也ちゃんは布団の上にペタンと腰を下ろして、照れたようにパジャマの胸元を抑えた。
「御屋形様、では急ぎましょう」
すると何かに対抗するように、千代さんが俺の腕を取ってボインと胸を押し付けてきた。
感覚的に、やはりダイレクト過ぎる。
「そ、そうだな。とにかく急いで……」
俺がそこから逃げるように立ち上ると、毛布がめくれて麻也ちゃんの手元に黒い何かがひらりと落ちた。
「ねえ、ナニコレ?」
麻也ちゃんがそのレースの凶悪なブツを拾い上げた。
うん、なんでしょうね、ソレ。
「まあヤダ、麻也ったら」
千代さんが表情の引きつってる麻也ちゃんにおっとりと笑いかける。
「それは大人の事情ってやつですよ」
片手を口に当てると、千代さんは俺の脚に傾れ掛かって妖艶に微笑んだ。
はて? そんな事情があるなんて知らなかったが……
どうやら今俺は、かなり危機的状況に追い込まれているようだ。
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